ドイツ子会社がEU域外へ製品や技術を出す取引を規律するのは、EUのデュアルユース規則(Regulation (EU) 2021/821)とドイツの対外経済法(AWG)・対外経済令(AWV)です。本記事では、2026年9月時点の規制リストの版から許可、キャッチオール、ロシア制裁、社内管理体制(ICP)までを公式情報で整理し、「日本本社の該非判定書をドイツでも使えるのか」に手順で答えます。

日本企業のドイツ子会社に輸出管理が関係する理由

規則2021/821の「輸出」には、通常の輸出手続のほか、非EU物品の再輸出や、ソフトウェア・技術を電子メールなどの電子的手段で域外へ送る行為も含まれます(EUR-Lex:Regulation (EU) 2021/821 第2条)。日本から輸入した製品をドイツの倉庫から第三国へ出荷する場合も、設計データを域外の拠点へ送る場合も対象になりえます。

輸出者は、輸出申告の受理時点で第三国の荷受人との契約を保有し、域外への送り出しを決定する権限を持つ者です。契約上の処分の権利がEU域外の者に属する場合は、EU域内の契約当事者が輸出者とみなされます。ドイツ子会社が自社名義で販売し出荷を決めるならドイツ子会社が輸出者ですが、日本本社が顧客と直接契約してドイツの在庫から出荷する取引では、誰が許可を取り記録を保存するのかを契約前に確定させる必要があります。在庫の持ち方はドイツ販売の現地在庫と直送の判断基準とあわせて設計してください。

日本からドイツへの出荷そのものは外為法の対象です。経済産業省によれば、ドイツは輸出令別表第3の地域に含まれ、客観要件によるキャッチオール規制の対象外ですが、リスト規制とキャッチオール規制の両方の観点からの確認は必要です(経済産業省:補完的輸出規制)。同じ製品に、日本とEUの二つの法体系が順番にかかります。

規制の枠組み:EU規則2021/821とドイツ国内法

規則の対象範囲

欧州委員会の解説では、規則2021/821は輸出・通過・仲介・技術支援を対象に、共通の許可類型、共通のEUリスト、リスト外品目の用途規制、記録保存などを定めています(欧州委員会:Exporting dual-use items)。附属書I品目の輸出には許可が必要で(第3条)、附属書IVの品目は域内移転にも許可が必要です(第11条)。附属書I品目の仲介と技術支援は、大量破壊兵器などの用途の可能性を当局から通知された場合に許可が必要となり(第6条・第8条)、域外物品の通過は当局が禁止できます(第7条)。

附属書I(規制リスト)は版の確認が必須

附属書Iは欧州委員会の委任規則で改正されます(第17条)。2026年9月22日時点で効力を持つのは、委任規則(EU) 2025/2003(2025年9月8日採択、11月14日官報掲載、翌日発効)で全体が差し替えられた附属書Iです(EUR-Lex:Delegated Regulation (EU) 2025/2003)。欧州委員会は2026年9月14日、半導体製造装置や先端演算用の集積回路などに関する変更を含む2026年版の改正を採択しました。理事会と欧州議会による通常2か月の審査の後、官報掲載をもって発効します(欧州委員会:2026 Update of the EU Control List)。判定記録には使用した版を必ず残してください。半導体関連の企業はドイツ半導体産業とサプライチェーンもあわせてご覧ください。

ドイツ国内法とBAFA

ドイツの所管は連邦経済・輸出管理庁(BAFA)で、輸出に許可が必要か、許可できるかを審査します(BAFA:Ausfuhrkontrolle)。確認すべきリストは、EU規則の附属書I(カテゴリー0の核関連からカテゴリー9の航空宇宙・推進まで)と、AWVの別表Ausfuhrliste(Anlage AL)です。その第I部A節は武器・軍需品、B節はドイツ独自のデュアルユース品目を定めており(BAFA:Güterlisten)、附属書Iに該当しなくても国内リストに該当する場合があります。

該非判定:日本の判定書がドイツでの判定の代わりにならない理由

日本の該非判定は、外為法に基づき輸出貿易管理令別表第1や貨物等省令と製品仕様を照合する作業です(JETRO:該非の確認方法)。ドイツから輸出する場合の照合先は附属書IとAusfuhrlisteで、BAFAは、品目が技術基準を満たすかを輸出者が自らの責任で確認するよう求めています。根拠法令が違う以上、日本の判定書を翻訳しただけではドイツ側の判定記録になりません。

とはいえ日本の判定書は出発点になります。CISTECは、EUリストと輸出令別表第1を対比させた「政省令-EU規制リスト対比表」を参考情報として公開しています(CISTEC:該非判定)。日本の項番から候補のEU番号に当たりをつけ、結論はEU側の技術パラメータで出す二段構えが現実的です。BAFAの対照表(Umschlüsselungsverzeichnis)も、統計品目番号から該当しうるリスト番号を示す補助ツールにとどまります(IHKライン=ネッカー:Umschlüsselungsverzeichnis)。関税分類との違いはドイツ輸入の関税とHSコードも参照してください。

判断に迷う品目には、BAFAの「Auskunft zur Güterliste(AzG)」があります。附属書IやAusfuhrliste第I部に該当しないことを確認する技術的見解で、許可ではなく、禁輸や用途に基づく義務も審査しません。また、申請者が外国の会社である場合や、単発の取引・技術については原則として出されません(BAFA:Auskunft zur Güterliste)。日本本社の名義では原則として取得できないため、ドイツ法人が自ら一次判定を行える体制が前提です。

実務の流れは次のとおりです。

  1. 型番ごとに仕様(性能値・用途・搭載ソフトウェア)を確定する
  2. 日本の判定書と対比表で候補のリスト番号を洗い出す
  3. 現行版の附属書IとAusfuhrlisteで判定し、版と判定日を記録する
  4. 難しい品目はドイツ法人の名義でAzGを検討する
  5. 出荷ごとに仕向地・需要者・用途を確認する

許可の種類と一般許可(EU001〜EU008)

規則第12条は、個別許可、包括許可、国内一般許可、EU一般許可の4類型を定めています。欧州委員会によれば、個別許可は1つの需要者向けの輸出を、包括許可は複数の品目・複数の国向けの輸出をカバーします。個別・包括許可の有効期間は当局が別段の判断をしない限り最長2年、大型プロジェクト向けは最長4年で、包括許可の利用者は原則としてICPの導入が必要です(第12条4項)。

EU一般許可は、条件を満たせば個別申請なしで利用できますが、BAFAの電子システム「ELAN-K2」での利用者登録が必要です(BAFA:Allgemeine Genehmigungen)。

番号 対象(BAFAの表記に基づく) 登録期限
EU001 10か国向けのデュアルユース品目 初回輸出後30日以内
EU002 ワッセナー関連の特定品目・4か国向け 初回輸出後30日以内
EU003 修理・交換後の再輸出 初回輸出後30日以内
EU004 展示会・見本市のための一時輸出 初回輸出後30日以内
EU005 特定の通信機器 初回輸出後30日以内
EU006 特定の化学品 初回輸出後30日以内
EU007 グループ内のソフトウェア・技術移転 初回輸出の30日前まで
EU008 特定の暗号関連品目 初回輸出の10日前まで

EU001の対象は、オーストラリア、アイスランド、日本、カナダ、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン、英国、米国の10か国です(BAFA:EU001)。ドイツ法人から日本本社へ規制技術を送る場合も輸出なので、EU001を使うなら条件の確認と登録が必要です。2024年1月1日以降のEU001〜EU008による輸出の報告義務は廃止されましたが、登録義務は残っています。

リスト掲載品目の許可を申請する会社は「Ausfuhrverantwortlicher(輸出責任者)」をBAFAに届け出ます。経営陣のメンバーでなければならず、輸出管理規定の遵守について個人として責任を負います(BAFA:Ausfuhrverantwortlicher)。駐在員が取締役を務める場合はその人が該当しえます。取締役の責任全般はGeschäftsführerの要件と責任をご覧ください。

キャッチオール規制:リスト外でも許可が要る場合

規則第4条1項により、附属書Iに載っていない品目でも、当局から次の用途のおそれを通知された場合は許可が必要です。(a)化学・生物・核兵器などの開発・製造・使用など、(b)武器禁輸対象国での軍事用途、(c)無許可で輸出された軍事品目の部品としての使用です。輸出者自身がこれらの用途を知っている場合は当局への通知義務があり(第4条2項)、第5条は人権侵害などに使われるおそれを通知されたサイバー監視品目にも許可を求めています。用途の説明があいまいな注文などを社内で「確認シグナル」として定義し、出荷前の確認と記録につなげてください。

ロシア制裁との関係:許可ではなく「禁止」の領域

BAFAは、規則(EU) Nr. 833/2014に基づき、附属書Iのすべてのデュアルユース品目・技術のロシアへの、またはロシアで使用するための輸出・販売・移転が、受取人や最終需要者にかかわらず原則禁止と説明しています。人的制裁の根拠は規則(EU) Nr. 269/2014で、直近では第21次制裁パッケージが2026年7月24日に発効しています(BAFA:Russland)。税関(Zoll)の案内は、この禁止がEU原産か否かを問わず、間接的な取引も含むことを示しています(Zoll:Russland)。日本製品をドイツ経由で販売する場合も同じです。

迂回対策として、規則第12g条はEUの輸出者に、航空関連品目、銃器、共通高優先度品目などを域外へ販売・供給する契約へ「ロシアへの再輸出禁止条項」を入れるよう求めています。欧州委員会のFAQ(2024年12月18日更新)によれば、新規契約では2024年3月20日から必要で、日本・米国・英国などAnnex VIIIのパートナー国の事業者との契約は対象外です(欧州委員会:No re-export to Russia clause FAQ)。日本本社との契約には不要でも、ドイツ子会社が第三国の販売店と結ぶ契約には必要になりえます。

ICP(社内輸出管理体制)と記録保存

欧州委員会勧告(EU) 2019/1318(2019年7月30日)は、ICPの中核要素として次の7つを示す、拘束力のない指針です(EUR-Lex:Recommendation (EU) 2019/1318)。内容は企業の規模や事業に応じて決まるとされています。

  1. 経営トップによる遵守へのコミットメント
  2. 組織体制・責任・経営資源
  3. 研修と意識向上
  4. 取引審査のプロセスと手順
  5. 実績評価・監査・報告・是正措置
  6. 記録保存と文書化
  7. 物理的セキュリティと情報セキュリティ

ドイツではBAFAが「Merkblatt Firmeninterne Exportkontrolle(ICP)」第3版(2022年4月)を公表しています(BAFA:ICP-Merkblatt)。規則第27条は、輸出が行われた暦年の末から少なくとも5年間の記録保存を義務づけています。罰則は加盟国が効果的・比例的・抑止的に定めるとされ(第25条)、ドイツでは指令(EU) 2024/1226を国内法化するAWG改正が2026年2月6日に施行され、デュアルユース品目の輸出禁止への重大な過失(leichtfertig)による違反も刑事罰の対象になりました(連邦経済エネルギー省:2026年2月6日付プレスリリース)。違反が疑われる場合の進め方はEUコンプラ違反が起きたらで整理しています。

よくある落とし穴

  • 判定書の流用:日本の該非判定書を訳して保管しているだけで、附属書IとAusfuhrlisteでの判定記録がない。
  • 輸出者があいまい:日本本社が契約しドイツ在庫から出荷する取引で、許可と記録の担当が決まっていない。
  • 技術送信の見落とし:図面やソースコードのメール・クラウド共有を輸出と認識していない。
  • 登録漏れ:EU001を使う前提で出荷しているが、BAFAへの登録期限を過ぎている。
  • 責任者の空白:駐在員が帰任し、届け出たAusfuhrverantwortlicherが更新されていない。

よくある質問

Q1. 日本からドイツ子会社へ送るだけなら、EU側の許可は不要ですか?

EU規則の「輸出」は域外へ出る取引で、域内への輸入は含みません。日本側では外為法の確認が必要で、ドイツから域外へ出す段階でEUの規制がかかります。

Q2. 日本や米国向けなら許可は不要ですか?

附属書I品目なら許可が必要です。EU001の条件を満たせば個別申請なしで利用でき、初回輸出後30日以内にBAFAへ登録します。

Q3. BAFAに「非該当」を確認してもらえますか?

AzGがありますが、許可ではなく、禁輸や用途に基づく義務は審査しません。外国の会社の申請には原則として発行されないため、ドイツ法人が申請します。

Q4. 2026年版のリスト改正はいつから適用されますか?

官報掲載をもって発効します。それまでは委任規則(EU) 2025/2003による附属書Iが適用されるため、EUR-Lexで掲載を確認してください。

まとめ——今週できる次の一歩

ドイツ・EUの輸出管理は外為法とは別の法体系で、リストも当局も記録義務も異なります。日本の判定書をそのまま使わないこと、取引ごとにEUの輸出者を確定すること、ロシア向けは禁止の領域であることの三点が要です。今週は次の確認から始めてください。

  • ドイツ法人の取扱品目と、判定に使った附属書Iの版の棚卸し
  • 日本本社が契約しドイツから出荷する取引の有無と、輸出者の特定
  • 一般許可の利用状況とELAN-K2での登録の有無
  • 第三国の販売店との契約の再輸出禁止条項と、Ausfuhrverantwortlicherの現任確認

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本記事は2026年9月22日時点の公開情報に基づいています。規制リストや制裁は頻繁に改正されるため、個別の判断は最新の公式情報と専門家の助言でご確認ください。