実務ガイド

Geschäftsführerとは:ドイツGmbH取締役の要件・責任【2026年版】

2026年6月10日(水)

ドイツでGmbH(有限会社)を設立・運営するうえで、最初に直面し、かつ最後まで重くのしかかるのが 取締役(Geschäftsführer/ゲシェフツフューラー) の選任と責任です。Geschäftsführer はGmbHを対外的に代表する唯一の業務執行機関であり、日本の「代表取締役」に近い存在ですが、個人責任の範囲・倒産時の義務・選任手続き は日本の会社法とは大きく異なります。

日系企業のドイツ子会社では、日本本社から派遣された駐在員や、現地採用の人材をGeschäftsführerに据えるケースが一般的です。しかし「日本本社の役員がそのまま兼任できるのか」「居住していなくても就任できるのか」「どこまで個人で責任を負うのか」といった論点を曖昧にしたまま登記を進め、後にトラブルとなる例が少なくありません。本ガイドでは、選任要件から登記手続き、代表権、個人責任、解任までを一気通貫で整理します。会社設立全体の流れはドイツ会社設立サービスも併せてご参照ください。

Geschäftsführerとは:意味・読み方

Geschäftsführer(読み方:ゲシェフツフューラー)とは、ドイツのGmbH(有限会社)の業務執行者・法定代表者を意味するドイツ語です。 Geschäft(業務・事業)+ Führer(導く者・執行する者)の合成語で、直訳すると「業務を執行する者」。英語では Managing Director(MD)と訳され、日本の会社でいえば 「代表取締役」に最も近い機関 です。GmbHには必ず1名以上のGeschäftsführerを置くことが法律で義務付けられています(§6 GmbHG)。

補足として、ドイツのビジネス文書や名刺で見かける 「GF」はGeschäftsführerの略記 です。女性形は Geschäftsführerin(ゲシェフツフューラーリン)、複数の場合も綴りは同形です。また、GmbHの取締役はGeschäftsführerですが、株式会社(AG)の経営陣は Vorstand(取締役会)と呼ばれ、制度が異なります。

日本の取締役会との違い

ドイツのGmbHは、社員総会(Gesellschafterversammlung)業務執行者(Geschäftsführer) という二層構造を基本とします。日本の取締役会設置会社のような合議体としての「取締役会」は必須機関ではなく、業務執行と代表は個々のGeschäftsführerが担います。

重要なのは、Geschäftsführer の地位が 二つの法律関係 から成り立つ点です。ひとつは会社法上の「機関としての地位」(Organstellung、=選任〔Bestellung〕によって生じる)、もうひとつは労働・委任契約としての「雇用関係」(Anstellungsverhältnis、=任用契約〔Anstellungsvertrag〕によって生じる)です。この 分離原則(Trennungsprinzip) により、解任されても任用契約が自動的に終了するわけではない、という実務上重要な帰結が生まれます。

選任要件:誰がGeschäftsführerになれるか(§6 GmbHG)

GmbH法(GmbHG)第6条は、Geschäftsführer の資格を定めています。要件は大きく「積極要件」と「欠格事由(消極要件)」に分かれます。

積極要件

Geschäftsführer になれるのは、行為能力に制限のない自然人(natürliche, unbeschränkt geschäftsfähige Person) に限られます。法人はGeschäftsführerになれません。社員(出資者)が兼任することも、第三者を起用することも可能です。

欠格事由(§6 Abs. 2 GmbHG)

次に該当する者は就任できません。

  • 財産管理について 同意の留保(Einwilligungsvorbehalt) を伴う成年後見を受けている者
  • 会社の事業目的と一致する範囲で、職業・営業の禁止(Berufsverbot/Gewerbeverbot) を受けている者
  • 特定の犯罪 による有罪判決を受けた者。とくに倒産関連犯罪(Insolvenzstraftaten、刑法283〜283d条)、§82 GmbHG上の虚偽申告、詐欺・背任など故意犯で 1年以上の自由刑 を受けた場合は、判決確定(Rechtskraft)から 5年間 就任できません。外国で言い渡された同種の判決も考慮されます。

欠格事由に該当する者を選任した場合、その選任は 当然に無効(nichtig) となります。形式だけ整えても効力は生じない点に注意が必要です。

外国人・非居住者は就任できるか

日系企業で最も多い質問が「日本に居住する本社役員でも就任できるか」です。結論として、ドイツ国内に住所(Wohnsitz)を持つことは法律上の要件ではありません。 2008年のGmbH法現代化(MoMiG)以降、Geschäftsführerは電子的手段で記帳義務などの法的義務を果たし得るとされ、国内居住や常時入国可能であることは必須ではないと解されています。

ただし二つの実務的制約があります。第一に、会社の登記上の本店(Satzungssitz)はドイツ国内 でなければならず(§4a GmbHG)、第二に、国内の営業所住所(inländische Geschäftsanschrift) を登記する必要があります(§8 Abs. 4 Nr. 1 GmbHG)。会社に実際に到達できる国内の連絡先が求められるということです。非EU国籍者の場合、就任自体は可能でも、実務上は公証手続きやビザ・税務の観点から現地に来訪できる体制が望まれます。

選任の手順と登記

  1. 社員総会の決議:Geschäftsführerの選任は社員総会の権限です(§46 Nr. 5 GmbHG)。設立時は定款(Satzung)で定めることもできます。
  2. 任用契約(Anstellungsvertrag)の締結:機関としての選任とは別に、報酬・任期・競業避止などを定める契約を結びます(分離原則)。
  3. 就任承諾と欠格事由の不存在の保証(Versicherung)§8 Abs. 3 GmbHGに基づき、欠格事由がない旨を保証し、告知義務について説明(Belehrung)を受けます。これは公証人または領事官の面前で行えます。
  4. 商業登記簿(Handelsregister)への登記:Geschäftsführerの氏名・代表権の態様を登記します。登記により対外的な公示効が生じます。

代表権と内部制限(§35・§37・§181 BGB)

§35 GmbHGにより、Geschäftsführerは会社を 裁判上・裁判外で代表 します。Geschäftsführerが複数いる場合、原則は共同代表(Gesamtvertretung) ですが、定款や社員総会決議で 単独代表(Einzelvertretung) に変更できます。

対外的な代表権は原則として 制限できません(善意の第三者保護)。社員総会が課す制限(一定額以上の契約には承認が必要、等)は 内部的な拘束(§37 GmbHG) にとどまり、違反しても取引自体は有効である一方、Geschäftsführerは会社に対し責任を負います。

一人会社(Ein-Personen-GmbH)や社員=Geschäftsführerのケースでは、自己取引の禁止(§181 BGB) が問題になります。会社と自分自身の間で契約を結ぶには、定款で 自己契約の禁止の解除(Befreiung) を定め、登記しておく必要があります。

取締役の個人責任:最重要ポイント

Geschäftsführerの責任は「対会社(内部責任)」と「対第三者・公的機関(外部責任)」に分かれます。

会社に対する責任(§43 GmbHG)

§43 GmbHGは、Geschäftsführerに 「通常の商人の注意(Sorgfalt eines ordentlichen Geschäftsmannes)」 を尽くす義務を課します。義務違反で会社に損害が生じれば、§43 Abs. 2により 個人の財産で損害賠償責任 を負います。

倒産時の申立義務(§15a InsO)

最も重い責任が 倒産申立義務(Insolvenzantragspflicht) です。§15a InsOにより、会社が 支払不能(Zahlungsunfähigkeit)または債務超過(Überschuldung) に陥った場合、Geschäftsführerは遅滞なく、遅くとも 支払不能では3週間以内、債務超過では6週間以内 に倒産手続開始を申し立てなければなりません。遅延は 倒産遅延(Insolvenzverschleppung) として刑事罰の対象となり、個人責任にも直結します。

倒産成熟後の支払い(§15b InsO =旧§64 GmbHG)

かつて旧§64 GmbHGが定めていた「倒産成熟後になされた支払いの返還責任」は、2021年1月1日施行の再建・倒産法整備法(SanInsFoG)により §15b InsO に統合されました。倒産成熟後に会社財産を流出させる支払いを行ったGeschäftsführerは、原則としてその金額を 個人で填補 する義務を負います(2021年以降に開始した手続きに適用)。

税・社会保険に関する責任

公租公課にも固有の責任があります。会社の税金が未納の場合、Geschäftsführerは 租税通則法(AO)§69 に基づき個人で責任を負い得ます。さらに、従業員負担分の社会保険料を納付しないと刑法§266a により刑事責任を問われます。給与・社会保険の実務はドイツ給与計算実務完全ガイド、記帳・決算義務はドイツHGB会計ガイドも参照してください。

比較:日本の代表取締役 vs ドイツのGeschäftsführer

論点 日本(代表取締役) ドイツ(Geschäftsführer)
設置機関 取締役会/株主総会で選定 社員総会で選任(§46 Nr.5)
居住要件 なし(現行法) なし(ただし国内営業所住所が必要)
代表権の制限 内部的のみ 内部的のみ(§37)
倒産申立義務 取締役の善管注意の一環 明文の期限あり(3/6週間、§15a InsO)
未納税の個人責任 限定的 §69 AOで広く責任

費用の目安

項目 概算(2026年)
選任・変更の商業登記(公証込み) 数百ユーロ規模
国内営業所・郵便対応 月数十〜百ユーロ規模
D&O保険(会社役員賠償責任保険) 補償額・業種で変動
任用契約の作成(弁護士) 案件により変動

正確な金額は公証人手数料表(GNotKG)や個別見積りに依存します。法人税・申告コストの全体像はドイツ法人税申告完全ガイドで確認できます。

よくある質問(FAQ)

Q. 日本本社の役員が兼任できますか。 A. 可能です。居住要件はありませんが、公証手続きや税務上の論点(みなし国内源泉所得等)に留意が必要です。

Q. Geschäftsführerは何人まで置けますか。 A. 人数制限はありません。複数の場合、原則は共同代表で、定款で単独代表に変更できます。

Q. 報酬は自由に決められますか。 A. 任用契約で定めますが、社員=Geschäftsführerの場合、過大報酬は 隠れた利益配当(verdeckte Gewinnausschüttung) として税務否認されるリスクがあります。

Q. 解任(Abberufung)は簡単にできますか。 A. 機関としての選任は社員総会決議でいつでも撤回可能です(§38 GmbHG、原則として理由不要)。ただし任用契約の終了は別問題で、解約予告や残報酬の問題が残ります(分離原則)。

Q. 個人責任を抑えるには。 A. 適時の記帳・倒産兆候の監視、社員総会の承認取得、D&O保険、専門家への早期相談が基本です。

実務チェックリスト

  • 候補者が自然人で欠格事由(§6 Abs. 2)に該当しないか確認したか
  • 国内の営業所住所(§8 Abs. 4 Nr. 1)を確保したか
  • 選任の社員総会決議と任用契約を 別個に 整備したか
  • 代表権の態様(単独/共同)を定款・登記で明確にしたか
  • 一人会社の場合、§181 BGBの自己契約解除を登記したか
  • 倒産兆候の監視体制(3/6週間の期限)を社内で共有したか
  • 税・社会保険の納付フローと責任分担を明確にしたか

まとめ

Geschäftsführerは、GmbHの「顔」であると同時に、倒産・税・社会保険の局面で 個人財産まで及ぶ重い責任 を負う立場です。選任時の欠格事由の確認、代表権と内部制限の設計、そして倒産申立義務(§15a InsO)の期限管理が、日系子会社のリスク管理の要となります。会社設立や監査対応と一体で設計することが重要で、ドイツ会計監査完全ガイドも参考になります。

TSM合同会社では、日系企業のドイツGmbH設立から、Geschäftsführerの選任・登記、任用契約の整備、コンプライアンス体制の構築までを一貫して支援しています。取締役の要件や責任に不安がある場合は、お早めにご相談ください。

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本記事は2026年6月10日時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法務・税務助言に代わるものではありません。具体的な判断は最新の法令と専門家への確認のうえで行ってください。

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