規制・法務

EU VAT One Stop Shop(OSS / IOSS)完全ガイド:日本企業のためのB2C越境EC・遠隔販売VAT対応2026年版——遠隔販売閾値、IOSS for 150EUR以下、申告手順

2026年5月8日(金)

EU 域内・域外から EU内消費者へB2C販売 を行う日本企業にとって、One Stop Shop(OSS)Import One Stop Shop(IOSS) は VAT 対応を劇的に簡素化する制度です。

これらの制度を 適切に活用しない場合、EU 27ヶ国それぞれで個別に VAT 登録・申告が必要になり、年間数十万EUR の対応コストと 重大な税務リスク が発生します。一方、正しく利用 すれば1つの登録国経由で全EU向けの VAT 申告が完結します。

本記事では、日本企業のEC・B2C事業向けに OSS / IOSS の実務 を整理します。

EU VAT の基本構造(B2C取引)

B2C取引の3つのパターン

① EU内事業者 → EU内消費者(域内遠隔販売)

  • Distance Sales of Goods within EU
  • 例:ドイツ法人 → フランス・イタリアの個人消費者

② EU外事業者 → EU内消費者(輸入販売)

  • Distance Sales of Imported Goods
  • 例:日本法人 → ドイツ・フランスの個人消費者

③ デジタルサービス(B2C TBE)

  • Telecommunications, Broadcasting, Electronic services
  • 例:日本のSaaS → EU内の個人ユーザー

各パターンで適用される OSS スキームが異なります。

OSS(One Stop Shop)の3つのスキーム

Union OSS(域内事業者向け)

適用対象

  • EU内に拠点がある事業者 が EU 内の消費者へ商品・サービスを販売

対象取引

  • B2C 商品の遠隔販売(域内)
  • B2C デジタルサービス
  • 一部のB2C サービス(不動産、輸送等)

Non-Union OSS(域外事業者向け)

適用対象

  • EU外の事業者 が EU 内の消費者へ デジタルサービス・サービス を提供

対象取引

  • デジタルサービス(SaaS、ストリーミング等)
  • 一部の B2C サービス

商品は対象外

商品(物品)は IOSS(次項)または通常の VAT 登録が必要。

Import OSS(IOSS / 輸入向け)

適用対象

  • EU外からEU内消費者への商品輸入 で、1点あたり 150EUR以下

対象取引

  • 直送(D2C)の越境EC
  • マーケットプレイス経由の輸入販売

域内遠隔販売の閾値(10,000EUR)

閾値ルール

EU内の事業者が他の加盟国の消費者へ販売する場合:

閾値以下(年間総額 10,000EUR以下)

  • 販売者の国の VAT 税率 を適用
  • 自国での通常の VAT 申告のみ

閾値超過(年間総額 10,001EUR以上)

  • 消費者の国の VAT 税率 を適用
  • OSS 利用 または 各加盟国での VAT 登録

注意事項

  • 閾値 10,000EUR は デジタルサービスと商品の合計
  • EU全体の合計 (加盟国別ではない)
  • 閾値超過は その時点から 適用、年初の遡及はなし

OSS のメリット

① 単一登録での全EU対応

  • 1つの加盟国(自国)で OSS 登録 すれば、全EU向けの B2C 販売の VAT 申告が完結
  • 27ヶ国の個別 VAT 登録が不要

② 申告の簡素化

  • 四半期ごとの単一 OSS 申告
  • 各加盟国別の売上 + VAT 額をまとめて報告
  • 自国の税務当局が他国へ自動配分

③ 言語・通貨の単純化

  • 自国の言語・自国の電子申告システムで完結
  • 通貨は EUR で統一

④ 税務調査の窓口一本化

  • 自国の税務当局が一次窓口
  • 各国の税務調査の調整・通知

IOSS のメリット(150EUR以下の輸入)

顧客側のメリット

IOSS 利用

  • 税関での追加課税なし
  • VAT は購入時に既に支払い済み(販売価格に含まれる)
  • 配送遅延なし、税関での処理コストなし

IOSS 不利用

  • 税関で消費者に追加 VAT 請求
  • 配送業者の 手数料 5〜15EUR が追加
  • 顧客満足度低下、返品リスク

販売者側のメリット

  • 顧客のチェックアウト体験向上 :税込価格を最終確定
  • 返品率低下
  • 配送効率化 :税関手続き簡素化

主要なケーススタディ

ケース①:日本のEC事業者 → ドイツの消費者(120EUR の商品)

IOSS 利用の場合

1. 商品価格:100EUR(税抜)
2. ドイツ VAT(19%):19EUR
3. 顧客請求額:119EUR
4. 商品出荷:日本 → ドイツ消費者へ直送
5. 税関:IOSS 番号確認、追加課税なし
6. IOSS 申告:月次でEU側へ19EUR支払い

IOSS 不利用の場合

1. 商品価格:100EUR(VAT抜き、配送料込み)
2. 顧客請求額:100EUR
3. 商品出荷:日本 → ドイツ
4. 税関:消費者にVAT 19EUR + 配送業者手数料 10EUR 請求
5. 顧客の最終支払:129EUR + 配送遅延

結果:IOSS 利用で 顧客の最終支払額が10EUR安く、配送も早い

ケース②:日本のEC事業者 → 全EU消費者(高額商品)

200EUR の商品(IOSS 適用外)

  • 各加盟国での個別VAT 登録:年間数十万EUR の対応コスト
  • 代替策:EU 内の物流ハブ(オランダ・ベルギー等)を経由
    • ハブ国に在庫保有
    • 域内遠隔販売として OSS 適用可能

ケース③:ドイツ子会社 → 全EU消費者

標準的な対応

  • ドイツ子会社が Union OSS 登録(ドイツの税務署経由)
  • 全EU向け B2C 販売を ドイツの OSS 申告で一括処理
  • 各国別 VAT 登録不要

OSS / IOSS の登録手順

Union OSS の登録(EU内事業者向け)

Step 1:登録国の選定

  • 拠点のある加盟国 に登録
  • 例:ドイツ子会社 → ドイツ税務署経由

Step 2:オンライン登録

  • 各加盟国の 電子申告ポータル から OSS スキーム登録
  • ドイツ:BZSt(連邦中央税務局)の OSS-Portal
  • 通常 1〜2週間 で承認

Step 3:VAT 番号取得

  • 既存の VAT 番号がそのまま OSS 識別番号として機能

Non-Union OSS の登録(EU外事業者向け、デジタルサービス)

登録国の選定

  • 任意の加盟国 に登録可能
  • 一般的にドイツ・アイルランド・オランダが選好される(言語、税務当局の対応速度)

必要書類

  • 事業者情報(日本の登記事項証明書等、英訳・公証付き)
  • 銀行口座情報(VAT 還付・支払い用)
  • 担当者情報

IOSS の登録

登録国の選定

  • EU内に拠点があれば自国
  • EU外事業者 :任意の加盟国

登録方法

  • 各加盟国の電子申告ポータル
  • IOSS 仲介者(Intermediary) の利用:EU外事業者は仲介者経由が一般的

IOSS 番号の取得

  • 12桁の IOSS 番号 が発行される
  • 配送ラベル・税関書類に記載

申告サイクル

Union OSS / Non-Union OSS

  • 四半期ごと
  • 申告期限:四半期終了月の翌月末
  • 例:Q1(1〜3月)→ 4月30日締切
  • 支払い期限:申告期限と同じ

IOSS

  • 月次
  • 申告期限:翌月末
  • 例:1月分 → 2月28日締切
  • 支払い期限:申告期限と同じ

申告書の記載項目

Union OSS / Non-Union OSS

  • 加盟国別の課税売上高(EUR換算)
  • 加盟国別の VAT 額
  • 訂正項目(前期分の修正)

IOSS

  • 加盟国別の課税売上高
  • 加盟国別の VAT 額
  • 顧客への請求額の合計
  • 出荷数量

OSS vs 各加盟国 VAT 登録の比較

OSS のメリット

項目 OSS 各国 VAT 登録
登録窓口 1ヶ国 27ヶ国(必要なら)
申告頻度 四半期 1回 各国別月次・四半期
言語 自国語 各国言語
通貨 EUR 単一 加盟国別現地通貨も
担当者 1名でOK 複数または外注必要
コスト 各国数千EUR / 年

OSS のデメリット

  • 限定的な対象 :B2C のみ(B2Bは含まれない)
  • VAT 還付の制限 :仕入 VAT の還付は 8th Directive 申告 別途必要

仕入 VAT の還付

OSS では仕入 VAT を還付できない

  • OSS は 売上 VAT の申告のみ
  • 仕入 VAT は 8th Directive Refund で別途申請

8th Directive Refund

  • EU内事業者 :自国経由で他のEU加盟国の仕入 VAT を還付
  • EU外事業者 :13th Directive Refund(条件あり、相互主義)

実務上の影響

  • OSS 利用 + 各国での仕入が多い → 還付申請プロセスの並行管理
  • 仕入が多い場合は 各国での VAT 登録の方が効率的 な場合あり

違反・罰則

申告遅延

  • 遅延ペナルティ:加盟国別、通常 1〜10% の追徴
  • OSS スキームからの排除 :3回以上の申告遅延

不正申告

  • VAT 詐欺 :加盟国別、刑事罰の可能性
  • EU横断の調査 :EUROFISC(EU不正対策ネットワーク)が情報共有

IOSS 番号の悪用

  • 他社の IOSS 番号での輸入 → IOSS スキームからの排除
  • 顧客への配送業務継続不可

日本企業の典型的な対応パターン

パターンA:日本本社の越境EC(B2C)

対応

  • ☐ IOSS 登録(150EUR 以下の商品)
  • ☐ IOSS 仲介者の選定
  • ☐ EU内物流ハブの検討(150EUR超の商品)
  • ☐ ECプラットフォームの設定(IOSS番号入力)

推奨予算

  • IOSS 登録・運用:5,000〜15,000 EUR / 年
  • 仲介者手数料:売上の0.5〜2%

パターンB:ドイツ子会社のEC(B2C)

対応

  • ☐ ドイツでの Union OSS 登録
  • ☐ EU 全域への遠隔販売の一括対応
  • ☐ 仕入 VAT の各国還付申請
  • ☐ 月次・四半期申告体制

推奨予算

  • OSS 登録・運用:3,000〜10,000 EUR / 年
  • 還付申請:3,000〜8,000 EUR / 年

パターンC:EU向けデジタルサービス(SaaS)

対応

  • ☐ Non-Union OSS 登録(任意の加盟国)
  • ☐ 顧客の所在地確認プロセス(IPアドレス + 請求先住所)
  • ☐ 各国別 VAT 税率の設定
  • ☐ 四半期申告

実務チェックリスト

登録前

  • ☐ 自社事業の OSS / IOSS 適用判定
  • ☐ 登録国の選定
  • ☐ 仲介者の選定(EU外事業者の場合)
  • ☐ 既存 ERP / 経理システムとの連携設計

登録時

  • ☐ 必要書類の準備
  • ☐ 電子申告ポータルでの登録
  • ☐ VAT 番号 / IOSS 番号の取得
  • ☐ ECプラットフォームへの設定

運用時

  • ☐ 月次・四半期申告
  • ☐ 加盟国別の売上・VAT 集計
  • ☐ 顧客所在地の確認プロセス
  • ☐ 仕入 VAT の還付申請

監査対応

  • ☐ 取引記録の 10年間保管 (EU 共通)
  • ☐ 顧客所在地の証拠資料保管
  • ☐ 加盟国別の課税適切性の証跡

まとめ:5つの最重要ポイント

  1. OSS / IOSS は EU B2C VAT 対応の標準 :個別登録より大幅に効率化
  2. 遠隔販売閾値 10,000EUR :超過は OSS 利用の判断ライン
  3. IOSS は 150EUR以下の輸入のみ :それ以上は各国登録 or 物流ハブ経由
  4. 仕入 VAT は別途還付申請 :OSS は売上のみ
  5. 取引記録 10年保管 :監査対応のためのデータ管理

おわりに

EU の VAT 制度は複雑ですが、OSS / IOSS を 適切に活用 すれば、日本企業の B2C 越境EC・サービス展開が大幅に効率化されます。一方、対応の不備は 顧客満足度低下、税務罰金、配送遅延 という三重苦を招きます。

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本記事の情報は2026年5月時点のものです。EU VAT 制度は改正・解釈変更が頻繁です。実際の対応にあたっては、最新の情報と税務専門家のアドバイスをご確認ください。

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