設立費用は「消える費用」と「残る資金」に分けて考える

ドイツでGmbH(有限会社)を設立するとき、予算は二つに分けて考えます。一つは、公証人や登記裁判所に支払う手数料のように、支払えばなくなる費用。もう一つは、資本金のように、会社の資金として残るお金です。

後者の資本金について、ドイツ連邦経済省の創業支援ポータルは、GmbHの最低資本金は25,000ユーロで、商業登記の申請までに少なくとも12,500ユーロを払い込む必要があるとしています。払い込んだ資本金は事業に使える会社の資金であり、設立の「費用」ではありません。資本金の決め方と払込みの実務はドイツの資本金はいくら必要かで解説しています。

本記事では、前者の「消える費用」を中心に、2026年時点の公的な計算例をもとに内訳を整理します。設立手続きの全体像はドイツ法人設立の全体像をご覧ください。

公証人と登記の費用は法律で決まっている

GmbHの設立で必ずかかるのが、公証人の手数料と、登記裁判所の手数料です。どちらも法令で定められており、交渉で決まるものではありません。

公証人の手数料(GNotKG)

公証人の手数料は、裁判所・公証人費用法(GNotKG)に基づき、資本金などの取引価値(Geschäftswert)に応じて算定されます。設立では、定款の公証、取締役(Geschäftsführer)の選任、商業登記の申請、登記用の構造化データ(XML)の作成、社員名簿(Gesellschafterliste)の作成といった項目に手数料がかかり、これに19%の付加価値税が加わります。公証人手続きの流れそのものはGmbH設立の公証人手続きにまとめています。

登記裁判所の手数料は2025年6月に引き上げ

登記裁判所の手数料は、商業登記手数料令(HRegGebV)で定められています。ヘックシェン&ザロモンの解説によれば、同令の改正(BGBl. 2025 I Nr. 127)により、2025年6月1日から登記手数料が50%引き上げられ、GmbHの初回登記は150ユーロから225ユーロになりました。2025年6月より前の資料で設立費用を見積もっている場合は、この点を差し替える必要があります。

コブレンツ商工会議所の計算例(2026年3月時点)

具体的な金額の目安として、コブレンツ商工会議所(IHK Koblenz)の計算例(2026年3月時点)が参考になります。資本金25,000ユーロ・現金出資(Bargründung)のGmbHについて、同所は次の内訳を示しています(公証人費用は付加価値税別)。

項目 個別の定款で設立 定型書式(Musterprotokoll)で一人設立
登記裁判所の手数料 225.00ユーロ 150.00ユーロ
公証人:商業登記の申請 62.50ユーロ 57.50ユーロ
公証人:XMLデータの作成 37.50ユーロ 34.50ユーロ
公証人:定款の公証・取締役の選任 384.00ユーロ 115.00ユーロ
公証人:社員名簿 96.00ユーロ —

この内訳を合計すると、個別の定款で設立する場合は805ユーロ(うち公証人費用580ユーロ)、定型書式で一人設立する場合は357ユーロ(うち公証人費用207ユーロ)です。公証人費用には別途19%の付加価値税がかかるため、税込みでは個別の定款の場合で約915ユーロ、定型書式の場合で約396ユーロになります。なお、同所の表の合計欄では個別の定款の場合を730ユーロとしていますが、これは引き上げ前の登記手数料150ユーロで計算した額と一致します。本記事では、表に記載された引き上げ後の225ユーロで合計し直しています。

同所は注記として、このほか登記裁判所が登記・受領の手数料の3分の1にあたる提供手数料(Bereitstellungsgebühr) を課すことがあること、現物出資(Sacheinlage)の場合は登記手数料が高くなり、公証人も現物出資報告書について追加の手数料を課すことを挙げています。また、定型書式を使えるのは、社員3名以下・取締役1名・現金出資のみの場合に限られます。

定型書式は費用を抑えられる一方、法律と異なる定めを加えられません。決議のルールや取締役の権限などを日本本社の管理方針に合わせて定款に書き込みたい場合は、個別の定款を選ぶことになります。

日本本社100%出資の場合の予算表

日本本社が単独で出資し、個別の定款で資本金25,000ユーロのGmbHを設立する場合を例に、費目を一覧にします。金額が法令や公的な計算例で示されているものと、契約内容や依頼先で変わるものを分けて整理しています。

費目 金額 性質
資本金 25,000ユーロ(登記申請までに12,500ユーロ以上を払込み) 会社の資金として残る
登記裁判所の手数料 225ユーロ(提供手数料がかかる場合あり) 法定
公証人の手数料 580ユーロ+付加価値税(IHK Koblenzの計算例) 法定(取引価値により変動)
外務省のアポスティーユ 無料 法定
日本側の証明書の取得・委任状の認証 法務局・公証役場の手数料 法定(書類の数による)
翻訳 依頼先による 見積りで確認
営業届(Gewerbeanmeldung) 自治体の手数料 自治体による
登記住所・オフィス 契約による 見積りで確認
税理士(Steuerberater) 依頼範囲による 見積りで確認
設立支援・法律事務所などの外部専門家 依頼範囲による 見積りで確認

外務省の申請手続きガイドによれば、アポスティーユの申請手数料は郵送・窓口とも無料です。一方、表の下半分にある費目は、依頼先や契約の内容によって変わります。法定の手数料は上の計算例で数百ユーロ単位のため、総額の見通しを立てるには、翻訳や外部専門家への報酬といった「見積りで確認する費目」を早めに確定させることが鍵になります。

設立後は、IHK(商工会議所)の会費、税理士の顧問料、決算の公示など、毎年の維持費がかかります。年間の維持費の構造はドイツGmbHの維持費用で解説しています。

期間を左右するのは「書類」と「口座」と「当局の処理」

設立にかかる期間は、法律で一律に決まっているわけではありません。日数を左右する要素と、法律や公的機関が定めている期限を分けて押さえておくと、スケジュールを逆算しやすくなります。

日本側の書類:証明書の有効期間とアポスティーユ

出資者である日本本社の登記事項証明書など、ドイツで使う日本の公文書には、外務省のアポスティーユを付けます。外務省の案内によれば、アポスティーユの対象となる公文書は発行日から3か月以内の原本である必要があり、東京の本省では、書類に不備がなければ受け付けから3開庁日後に証明済みの書類が郵便で返送されます。

証明書の取得が早すぎると、公証の時点で有効期限が切れてしまうことがあります。定款の内容と公証の日程がある程度固まってから取得するのが安全です。

公証:ビデオ会議を使えるかは本人確認書類で決まる

2022年8月以降、公証人との手続きはビデオ会議でも行えます。ただし、ポツダム商工会議所のオンライン設立に関するFAQによれば、本人確認に使えるのは、eID機能付きのドイツの身分証明書、EU・EEA加盟国のeIDカード、eID機能付きの電子滞在許可証などに限られ、パスポートや第三国の身分証明書は使えません。同FAQは、ビデオ通信サービスの実費として25ユーロ、認証について8ユーロがかかるとしています。

つまり、eID機能付きの電子滞在許可証などを持たない日本本社の役員は、ビデオ会議で直接手続きすることができず、公証人の面前に出向くか、公証された委任状で代理人に手続きを任せる形になります。どの方法を取るかで、委任状の準備期間が必要かどうかが変わります。

銀行口座と資本金の払込み

公証の後、設立中の会社名義の口座に資本金を払い込み、その証明を公証人に提出してから登記の申請に進みます。口座開設にかかる日数は銀行の審査によって変わるため、早めに銀行と相談を始めることが大切です。口座開設の要件はドイツの法人銀行口座開設をご覧ください。

登記後の法定の期限

登記によってGmbHが成立した後にも、期限のある手続きが続きます。

  • 税務登録のための質問票:開業から1か月以内に、ELSTERなどで電子的に提出する(バイエルン州税務庁)
  • 透明性登録簿への届出:新設のGmbHは、実質的支配者を遅滞なく電子的に届け出る(ベルリン商工会議所)
  • 営業届(Gewerbeanmeldung):事業を始めるにあたり、所在地の自治体に届け出る

事業の開始日から逆算する場合は、これらの期限まで含めてスケジュールを組むことになります。

よくある落とし穴

2025年6月以前の資料で登記手数料を見積もる。 GmbHの初回登記は150ユーロから225ユーロに引き上げられています。

資本金を「設立費用」に含めてしまう。 資本金は会社の資金として残ります。予算上は、消える費用と分けて管理します。

日本の証明書を早く取りすぎる。 アポスティーユの対象となる公文書は発行日から3か月以内である必要があります。

ビデオ会議で設立できると思い込む。 パスポートは本人確認に使えないため、ドイツの電子滞在許可証などを持たない役員は、委任状か対面での手続きが必要です。

法定費用だけで総額を判断する。 翻訳や外部専門家への報酬など、見積りで確認する費目を確定させないと、総額は見通せません。

よくある質問

Q. GmbH設立の法定費用はいくらですか。

A. コブレンツ商工会議所の計算例(2026年3月時点、資本金25,000ユーロ・現金出資・個別の定款)では、登記裁判所の手数料225ユーロと公証人費用580ユーロ(付加価値税別)の合計805ユーロです。定型書式で一人設立する場合は357ユーロ(同)です。

Q. 資本金25,000ユーロは設立時に全額必要ですか。

A. 登記の申請までに少なくとも12,500ユーロを払い込む必要があります。払い込んだ資本金は会社の資金として事業に使えます。

Q. 日本本社の書類のアポスティーユに費用はかかりますか。

A. 外務省のアポスティーユの申請手数料は無料です。ただし、証明書の取得や委任状の認証には、法務局や公証役場の手数料がかかります。

Q. 設立にはどれくらいの期間がかかりますか。

A. 一律の期間はありません。日本側の書類の準備、公証の方法(対面・代理人・ビデオ会議)、銀行口座の開設、登記裁判所の処理によって変わります。書類の有効期間や登記後の期限から逆算してスケジュールを組むのが確実です。

Q. ビデオ会議で設立すれば渡航は不要ですか。

A. ビデオ会議の本人確認には、eID機能付きの身分証明書や電子滞在許可証が必要で、パスポートは使えません。それらを持たない場合は、公証された委任状で代理人に手続きを任せることで、渡航せずに進められます。

まとめ——今週できる次の一歩

GmbHの設立費用は、資本金(残る資金)と手続きの費用(消える費用)に分けて考えます。法定の手続き費用は、コブレンツ商工会議所の計算例で、個別の定款の場合に805ユーロ(公証人費用は付加価値税別)、定型書式で一人設立する場合に357ユーロです。登記手数料は2025年6月に50%引き上げられています。期間は一律ではなく、書類の有効期間、公証の方法、銀行口座、当局の処理で決まります。

今週できる一歩として、予算表の「見積りで確認する費目」(翻訳、登記住所、税理士、外部専門家)を書き出し、それぞれ誰に見積りを依頼するかを決めてください。あわせて、日本本社の役員がドイツの電子滞在許可証を持っているかを確認すると、公証の方法とスケジュールの見通しが立ちます。

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本記事は2026年9月28日時点の公開情報(コブレンツ商工会議所・ポツダム商工会議所・ベルリン商工会議所、バイエルン州税務庁、ドイツ連邦経済省の創業支援ポータル、外務省など)に基づく一般的な解説です。実際の費用は取引価値や手続きの内容によって変わりますので、公証人・専門家の見積りでご確認ください。