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ドイツの資本金はいくら必要か:最低額と払込【2026年版】

2026年7月23日(木)

資本金は「登記のための数字」ではなく、「引き出せないお金」である

ドイツで現地法人を設立するとき、資本金(Stammkapital)は「登記を通すために必要な数字」として扱われがちです。最低額の25,000ユーロを入れて、登記して、あとは運転資金として自由に使う——そんなイメージで進めると、二つの場面でつまずきます。

一つは、最低額しか入れず、立ち上げ早々に運転資金が尽きる場面。もう一つは、「自社が出したお金なのだから、いつでも引き上げられる」と考えて、実は法律がそれを禁じていると後で知る場面です。ドイツの資本金には、払い込んだら簡単には引き出せない「資本維持」というルールがあり、これを知らないと、親子間の資金移動や配当の設計で足をすくわれます。

本記事は、ドイツGmbHの資本金を「最低額と払込のルール → いくら入れるべきか → 現物出資 → 引き出せない仕組み(資本維持)」という順で整理します。どの法人形態を選ぶかという上流の判断はGmbHとUGの違いに譲り、ここでは資本金そのものの実務に踏み込みます。

最低資本金と払込:ルールを正確に押さえる

GmbHの最低資本金は、GmbHG §5により25,000ユーロです。ただし、設立時に全額を払い込む必要はありません。登記の申請前に、最低でもその半額(12,500ユーロ)を払い込み、かつ各社員は自分の現金出資(Bareinlage)の少なくとも4分の1を払い込む必要があります(für-gründer:GmbHの資本金)。残りは未払込のまま登記できますが、これは会社に対する債務として残り、後日払い込む義務を負います。

払込は、設立中の会社(GmbH in Gründung)名義のドイツの銀行口座に対して行い、公証人・登記所が払込の事実を確認したうえで登記が進みます。

なお、少額から始めたい場合はUG(haftungsbeschränkt)という選択肢があり、1ユーロから設立できますが、利益の一部を積み立てて25,000ユーロに達したらGmbHへ移行するという制約があります。信用面も含めた選び方はGmbHとUGの違いを参照してください。本記事の以下は、標準的なGmbHを前提に進めます。

いくら入れるべきか:最低額は「下限」であって「目安」ではない

ここが、日系企業が最も判断を誤りやすいところです。25,000ユーロは法律上の下限であって、「これだけ入れればよい」という目安ではありません。

最低額しか入れないことには、実務上の代償があります。立ち上げの運転資金がすぐ不足すること。そして、資本金は商業登記で公開されるため、銀行・賃貸人・取引先はあなたの会社の資本金を見て信用を判断します。最低額のままだと、「本気度が低い」「体力がない」と受け取られ、口座開設や与信、賃貸契約で不利に働くことがあります。

一方で、必要な資金の全額を資本金として入れる必要もありません。実務では、資本金(Stammkapital)と資本準備金(Kapitalrücklage)、そして株主ローン(Gesellschafterdarlehen)の組み合わせで資金を入れます。株主ローンは柔軟で、利子は損金となり、日独租税条約のもとで利子の源泉税は0%です(子会社・持株会社の設計)。判断の順序としては、まず立ち上げ第一段階に必要な総額を見積もり(ドイツ進出の初期投資:内訳と最適化)、そのうえで、信用の観点から資本金をいくらに置き、残りを準備金やローンでどう入れるかを設計します。

現物出資(Sacheinlage):モノやIPで出資する場合

資本金は、現金だけでなく、設備・在庫・知的財産などの現物で出資することもできます(Sacheinlage)。ただし、現金出資よりも要件が厳格です。

現物出資は、登記の申請時までに全額を給付(会社へ移転)しておく必要があり、さらに**出資される財産の種類・価値・妥当性を記した評価報告書(Sachgründungsbericht)**を作成しなければなりません。登記所は、その評価が過大でないかを審査します。

ここに、日系企業がはまりやすい罠があります。「隠れた現物出資(verdeckte Sacheinlage)」です。形式的には現金を払い込みながら、その資金で払込の直後に親会社から設備や在庫を買い取る——といった仕組みは、実質的な現物出資とみなされ、現金の払込が有効になされていないと扱われるおそれがあります。その場合、社員はなお払込義務を負ったままとなります。親会社の資産を現物で入れたいなら、正規のSacheinlageの手続きを踏むか、あるいはきれいな現金出資別個の売買取引として、時期と実態を明確に分けてください。

資本維持(§30 GmbHG):資本金は「引き出せない」

ドイツの資本金を理解するうえで最も重要なのが、資本維持(Kapitalerhaltung)の原則です。§30 GmbHGは、登記された資本金を維持するために必要な会社財産を、社員へ払い戻すことを禁じています。つまり、会社の純資産が資本金の額を下回るような(あるいは下回らせるような)社員への支払いは許されません。

この禁止に反した支払いは、受け取った社員が返還義務を負い(§31 GmbHG)、支払いを実行した取締役(Geschäftsführer)も個人責任を問われ得ます。しかも対象は配当だけではありません。社員への貸付、キャッシュプーリングによる資金の吸い上げ、市場価格を超える取引など、会社財産を実質的に減らすあらゆる給付が含まれます。

日系子会社にとっての含意は明確です。払い込んだ資本金は、いつでも本社へ戻せる「積立金」ではありません。 子会社から親会社への貸付や、子会社の資金を資本金の線を割り込むまで吸い上げるキャッシュプーリングは、この原則に抵触し得ます(キャッシュプーリング完全ガイド子会社・持株会社の設計)。後で柔軟に動かしたい資金は、資本金ではなく株主ローンの形で入れておくのが定石です——ただしローンであっても、会社が資本欠損(Unterbilanz)にある局面での返済には制約がかかります。

増資・減資:後から資本金を変えるには

資本金は固定ではなく、後から増やす(Kapitalerhöhung)ことも減らす(Kapitalherabsetzung)こともできます。たとえば、貸借対照表を厚くするため、あるいは株主ローンを資本に振り替えるために増資する、というのは実務でよくあります。

ただし、いずれも社員総会の決議・公証・商業登記を要する手続きであり、定款変更に準じる重さがあります(定款(Satzung)の設計)。とくに減資は債権者保護の手続きを伴い、簡単ではありません。「とりあえず最低額で登記して、後で増やせばよい」という発想は成立しますが、増資には手続きコストと時間がかかることは織り込んでおいてください。

よくある落とし穴

最低額だけ入れて運転資金が尽きる。 25,000ユーロは下限であって目安ではありません。信用面でも不利に働きます。

資本金は自由に引き出せると誤解する。 §30の資本維持により、資本金を割り込む社員への払い戻しは禁じられます。動かしたい資金はローンで入れてください。

現物出資の手続きを省く/隠れた現物出資に陥る。 Sachgründungsberichtを欠いたり、現金払込の直後に親会社資産を買い取ったりすると、払込が無効と扱われるおそれがあります。

全額を資本金で入れてしまう。 後の資金設計の柔軟性を失います。資本金・準備金・株主ローンの配分で考えます。

増資・減資を軽い手続きと誤解する。 いずれも公証・登記を要し、減資は債権者保護を伴います。

UGで始めて積立義務や信用面を軽視する。 少額設立の裏側にある制約を理解して選んでください。

よくある質問

Q. 資本金は最低いくら必要ですか。 A. GmbHは25,000ユーロで、設立時の払込は最低12,500ユーロ(かつ各現金出資の4分の1以上)です。UGは1ユーロから設立できますが、積立義務があります。

Q. 設立時に全額を払い込むのですか。 A. いいえ。GmbHは半額(12,500ユーロ)以上と各現金出資の4分の1以上を払い込めば登記できます。残りは会社への債務として残ります。

Q. 資本金は運転資金に使えますか。 A. 事業のために使うのは当然に可能です。使えないのは「社員(親会社)への払い戻し」です。§30により、資本金を割り込む払い戻しは禁じられます。

Q. モノや知的財産で出資できますか。 A. できます(現物出資)。ただし全額を登記時までに給付し、評価報告書(Sachgründungsbericht)が必要です。隠れた現物出資に注意してください。

Q. 後から資本金を増やしたり減らしたりできますか。 A. できます。ただし社員総会決議・公証・登記を要し、減資は債権者保護の手続きを伴います。

Q. 資本金と株主ローンはどう使い分けますか。 A. 資本金は信用のシグナルであり、資本維持で拘束されます。柔軟に動かしたい資金はローンが向きます。両者の配分で設計してください。

まとめ:今週できる次の一歩

ドイツの資本金は、次の順で決めると整理できます。

まず、立ち上げ第一段階に必要な総額を見積もる。次に、そのうち信用面から資本金をいくらに置くかを決め、残りを資本準備金や株主ローンにどう振り分けるかを設計する。現物で出資するなら、評価報告書を含む正規の手続きを段取りする。そして最後に、払い込んだ資本金は「引き出せないお金」であり、後で動かしたい資金はローンで入れておくという原則を、資金計画の前提に置く。

最低額の25,000ユーロは出発点にすぎません。いくら入れ、どう入れ、どう扱うか——ここを設計しておくことが、立ち上げ後の資金繰りと本社への資金還流を左右します。

TSM合同会社では、日系企業のドイツ現地法人について、資本金の設計、現物出資の手続き、資本と株主ローンの配分、資本維持を踏まえた資金設計を、日本語で支援しています。会社設立の全体像は現地法人設立支援サービスをご覧ください。設立の前に設計しておくほど、後戻りのコストは小さくなります。

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本記事は2026年7月23日時点の法令・公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の法務・税務助言ではありません。資本金の設計・現物出資・資本維持の適用にあたっては、必ずドイツの公証人・弁護士・税理士および日本側の専門家による確認をお取りください。

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