ETIASはまだ始まっていない——2026年9月時点の状況
最初に結論です。2026年9月25日時点で、ETIAS(欧州渡航情報認証制度)の運用は始まっていません。 ドイツへの短期出張で、今この手続きをする必要はありません。
欧州委員会のETIAS公式サイトは、「ETIASは現在運用されておらず、渡航認証の申請は受け付けていない」とし、開始日は運用開始の数か月前に告知するとしています。外務省の「欧州諸国を訪問する方へ」(2026年8月26日更新)も、運用開始時期は未定で、現時点で渡航に際して手続は不要と案内しています。
経緯も押さえておきましょう。2025年6月にeu-LISA(EUの大規模ITシステム管理機関)が開いた運送事業者作業部会で、欧州委員会は運用開始を「2026年の最終四半期」に予定していると説明していました(eu-LISA:Carriers Working Group会合要旨)。しかし現在の公式サイトに具体的な時期の記載はなく、日付は正式な告知を待つ段階です。
開始時期について出張計画の根拠にするのは、EU公式サイトと外務省の告知だけにしておくのが安全です。
ETIASとは何か:ビザではなく「渡航認証」
ETIASは、日本のように短期滞在のビザが免除されている国の国民が、欧州30か国に渡航する前にオンラインで取得する渡航認証です。対象国にはドイツをはじめ、フランス、イタリア、スイス、キプロスなどが含まれます(外務省の案内に30か国の一覧があります)。
EUの公式サイトによれば、ETIASの主なポイントは次のとおりです。
- パスポートにひも付く:新しいパスポートに切り替えたら、ETIASも取り直す必要がある
- 有効期間:最長3年、またはパスポートの有効期限まで(いずれか早い方)
- 何度でも入国可能:有効期間中は、通常180日間に最長90日の短期滞在で繰り返し入国できる
- 入国の保証ではない:入国時に国境審査官が入国要件を満たしているかを確認する
また、在仏日本国大使館の案内によれば、対象国の滞在許可証などを持つ人はETIASの対象外です。ドイツの滞在許可で駐在している社員は、この点で出張者とは扱いが異なります。
申請の流れと費用・審査期間
運用が始まった後の手続きは、EUの公式サイトによれば次のとおりです。
- 申請方法:ETIAS公式ウェブサイト、または公式モバイルアプリから申請する
- 手数料:20ユーロ。外務省の案内では、申請者が18歳未満または70歳以上の場合は無料
- 審査期間:大半は数分で処理される。時間がかかる場合でも4日以内に結果が出るが、追加情報を求められると最大14日、面接に呼ばれると最大30日まで延びることがある
- 結果の通知:申請番号と結果はメールで届く。拒否の場合は理由と不服申立ての方法が示される
公式サイトは、航空券や宿泊を予約する前に申請するよう勧めています。審査が長引くケースがあるためです。
注意したいのが、非公式の代行サイトです。外務省は、EUの許可なく立ち上げられた模倣ウェブサイトによるフィッシング詐欺に注意するよう呼びかけています。出張者に申請させる場合は、会社として公式サイトのURLを指定しておくと確実です。
導入直後の移行期間
同じ2025年6月の作業部会で、欧州委員会は開始後の段階的な運用についても説明しています(前掲のeu-LISA要旨)。
- 移行期間:運用開始から6か月間。ETIASがなくても入国できる
- 猶予期間:移行期間に続く少なくとも6か月間。その期間中の最初の入国であれば、ETIASがなくても入国できる
つまり、開始日を境にいきなり全員が必要になるわけではありません。ただし、期間の具体的な日付は開始日が決まって初めて確定します。
EES(出入域システム)はすでに稼働している
ETIASと混同されやすいのが、EES(Entry/Exit System、出入域システム) です。こちらはすでに稼働しています。欧州委員会のスマートボーダー政策のページによれば、EESは段階的な導入を経て2026年4月10日に全面稼働しました。
EUのEES公式サイトによれば、EESは短期滞在で入出国するEU域外の国民について、次の情報を記録します。
- パスポートなど渡航文書の記載事項
- 入国・出国の日付と場所
- 顔画像と指紋(生体情報)
- 入国を拒否されたかどうか
顔画像や指紋の提供を拒むと、入国は認められません。日本人の出張者も対象で、パスポートへのスタンプは、この電子記録に置き換わっていきます。
一方、EESの適用除外には、滞在許可や長期ビザの保持者、企業内転勤(ICT)で渡航する人などが挙げられています。ドイツの滞在許可を持つ駐在員は、出張者とは扱いが異なります。
90日/180日ルール:数え方の注意点
ビザなしの短期滞在は、180日間のうち最長90日です。EESの公式サイトは、この期間はEESを運用する欧州の国々全体で一つの期間として計算されると説明しています。ドイツで40日、フランスで30日、イタリアで25日——と国をまたいで出張すれば、合計で95日となり、上限を超えます。
EESによって入出国が電子的に記録されるため、日数の管理はこれまで以上に正確に行われます。なお、ETIASの公式サイトによれば、キプロスでの滞在日数は別に計算され、他の国の90日には含まれません。
もう一つの確認事項がパスポートの残存期間です。公式サイトのチェックリストは、出国予定日から3か月以上の有効期間が必要だとしています(例外あり)。
出張でできること、できないこと
ETIASは「入国の手続き」であって、現地で何をしてよいかを決めるものではありません。 ドイツでの活動の範囲は、ドイツの就労令(BeschV)が定めています。
商談・契約・拠点の立ち上げ(BeschV第16条)
連邦雇用エージェンシー(BA)の外国人雇用に関する案内(Merkblatt 7)によれば、国外の雇用のまま入国して、短期の商談・交渉、契約の締結、輸出向け商品の買付け、あるいは国外の雇用主のためにドイツ国内の拠点を設立・監督・管理する活動は、「出張者(Geschäftsreisende)」として、180日間に90日以内の滞在であればBAの同意を要しません(BeschV第16条)。税関(Zoll)の案内も、この範囲の出張者を就労許可が不要な例外として扱っています。
ただし、出張者が日本本社の名で契約を反復して締結する場合は、入国管理とは別に、税務上の恒久的施設(PE)の論点が生じ得ます。詳しくはドイツの恒久的施設(PE)リスクをご覧ください。
機械の据付・保守:作業開始の10日前までにBAへ届出
製造業の出張で見落としやすいのが、機械・設備の据付や保守です。BAの据付・解体に関する案内によれば、納入契約に基づいて国外の会社の従業員が機械・設備・ソフトウェアの据付、保守、修理を行う場合や、中古設備を本国へ移送するために解体する場合は、次のルールがあります。
- 期間:従業員1人あたり、12か月間に最長90日
- 届出:作業を始める少なくとも10日前までにBAへ届け出る
- 届出者:国外の雇用主、その代理人、または設備を購入したドイツ側の会社が提出できる
- 法的根拠:BeschV第19条1項1号・3号および第30条2号
一方、機械の受領、操作の指導を受けること、見本市ブースの設営、輸出・ライセンス契約に基づく研修の受講は、この届出の対象外とされています。BAが確認した届出は、査察の際などに提示できるようにしておく必要があります。
据付の「期間」の数え方が、商談出張の「180日間に90日」と異なり「12か月間に90日」である点にも注意してください。
90日を超える、または現地で働く場合
長期の駐在や、ドイツ法人に雇用されて働く場合は、ETIASではなく滞在許可(在留資格)の問題になります。日本国籍者には、ビザなしで入国してからドイツ国内で滞在許可を申請できる扱いがありますが、ビザなしの滞在中の就労は、就労令で認められた例外を除いて原則として認められません。詳しくはドイツの在留資格とビザ 完全ガイド、ドイツ就労ビザと労働許可証 完全ガイド、駐在の準備全体はドイツ駐在・出向の準備チェックリストにまとめています。
開始までに会社として準備しておくこと
ETIASの開始日は未定ですが、告知は数か月前に出されます。それまでに、出張の実務を次の3点で整えておくと、開始後に慌てずに済みます。
- 出張規程・手配フローに1行加える:「ETIASは公式サイトまたは公式アプリで申請する」「航空券の手配前に申請する」と明記し、代行サイトの利用を避ける
- パスポート情報を管理する:ETIASはパスポートにひも付くため、パスポートを更新した社員は取り直しが必要になる。出張者リストにパスポートの有効期限を持たせておく
- 滞在日数を国ごとではなく合算で管理する:欧州の複数国を回る出張者について、直近180日の滞在日数を合計で追える形にする
機械の据付・保守で技術者を派遣している会社は、ETIASとは別に、BAへの届出の手順が社内で決まっているかを確認しておいてください。
よくある落とし穴
ETIASが「もう必要」だと思い込む。 2026年9月時点では運用されていません。非公式サイトへの手数料の支払いやフィッシング被害を避けるためにも、公式情報で確認してください。
ETIASとEESを同じものだと考える。 EESは2026年4月10日に全面稼働済みで、入国時に顔画像と指紋が登録されます。ETIASは出発前のオンライン申請で、まだ始まっていません。
90日を国ごとに数える。 180日間に90日の上限は、EESを運用する国々の合計で数えます。
「ETIASがあれば現地で何でもできる」と考える。 活動の範囲はドイツの就労令が決めます。据付・保守には、事前のBA届出が必要な場合があります。
よくある質問
Q. 今、ドイツに出張する場合、ETIASの申請は必要ですか。
A. 不要です。欧州委員会の公式サイト、外務省の案内とも、現時点でETIASは運用されていないとしています。
Q. ETIASはいつから始まりますか。
A. 2026年9月時点で公式な開始日は発表されていません。EUは、開始日を運用開始の数か月前に告知するとしています。
Q. 手数料と有効期間は。
A. 手数料は20ユーロで、18歳未満と70歳以上は無料です。有効期間は3年、またはパスポートの有効期限までのいずれか早い方です。
Q. ドイツの滞在許可を持つ駐在員もETIASが必要ですか。
A. 在仏日本国大使館の案内によれば、対象国の滞在許可証などの保持者はETIASの対象外です。また、滞在許可の保持者はEESの登録対象からも除外されています。
Q. 出張中に取引先で機械の据付作業をしても大丈夫ですか。
A. 納入契約に基づく据付・保守・修理は、作業開始の少なくとも10日前までにBAへの届出が必要で、1人あたり12か月間に最長90日までです。
まとめ——今週できる次の一歩
ETIASは、日本人を含むビザ免除国の国民が欧州30か国に渡航する前に取得する渡航認証です。2026年9月時点で運用は始まっておらず、開始日は数か月前に告知されます。 一方、入出国時に顔画像と指紋を登録するEESは、2026年4月10日にすでに全面稼働しています。出張でできる活動の範囲は、ETIASではなくドイツの就労令が決めます。
今週できる一歩として、自社の出張規程を開き、「ETIASは公式サイトから申請する」「滞在日数は欧州全体で合算管理する」「据付・保守はBAに事前届出」の3点が書かれているかを確認してください。書かれていなければ、開始日の告知を待たずに追記しておくことをお勧めします。
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本記事は2026年9月25日時点の公開情報(欧州委員会・EUのETIAS/EES公式サイト、外務省、連邦雇用エージェンシー、税関)に基づいています。ETIASの開始時期や運用は変更される場合がありますので、渡航前には必ず公式情報をご確認ください。