「いくらかかるか」を先に聞くと、比べられなくなる

ドイツ進出の相談を始めるとき、「いくらかかりますか」から聞きたくなるのは自然です。ただ、この順番だと見積を比較できません。同じ「市場調査」という名前でも、想定する工数が大きく違う提案が並びうるからです。

比較可能にするには、先に押さえるべきものが2つあります。単価の実勢と、料金モデルの型です。この2つが分かっていれば、提示された金額が何を意味するのかを自分で分解できます。

この記事では、ドイツのコンサルティング料金の公表データ、料金モデルの3類型、無料で使える公的支援とその適用条件、そして見積を取るときの質問リストを整理します。最後に、当社の場合も同じ枠組みで説明します。

ドイツのコンサル単価:BDUの公表データ

ドイツ経営コンサルタント連盟(BDU)は、コンサルティング料金の調査を公表しています。「Honorare im Consulting 2025」によれば、2025年の数字は次のとおりです。

区分 平均日当
全体平均 1,300ユーロ
パートナー/マネージングディレクター 1,600ユーロ
アナリスト 700ユーロ

平均日当は2025年に前年比マイナス2%で、47%のコンサルティング会社は料金を据え置きました。分野別では戦略コンサルのみプラス2%、ITコンサルはマイナス3%、組織・人事コンサルはマイナス1%です。加えて、旅費の定額上乗せは平均190ユーロとされています。

この数字の読み方に注意が必要です。これはBDUが中堅・大手を中心とする130社超のコンサルティング会社を調べた数字であり(調査の概要)、「日系企業向けドイツ進出支援」に特化した相場ではありません。 日本語対応や日本側との時差調整が入る領域では条件が変わります。それでも、単価の桁を把握する基準としては十分に使えます。

使い方はこうです。提示された見積を「金額 ÷ 1,300ユーロ」で割ってみてください。それが先方の見込んでいる人日です。 たとえば市場調査に300万円の提示を受けた場合、欧州中央銀行の参照レート(2026年9月22日、1ユーロ=180.17円)で約16,650ユーロとなり、1,300ユーロで割るとおおよそ13人日の想定だと読めます。その工数で自社の問いに答えが出るのかを考えれば、金額の妥当性は自分で判断できます。

料金モデルの3類型

見積の形は、おおむね3つに分かれます。

時間・人日精算型。 単価×工数で積算する方式です。作業範囲が読みにくい調査や、要件が動く初期フェーズに向きます。透明性が高い一方、上限を決めておかないと膨らみます。必ず上限工数(キャップ)を契約に入れてください。

固定報酬型(プロジェクト単位)。 成果物を定義して総額で契約する方式です。法人設立支援や市場調査レポートのように、終わりが定義できる仕事に向きます。発注側にとって予算管理が容易な反面、スコープ外の作業が都度追加見積になるため、何が含まれ何が含まれないかを契約時に詰める必要があります。

月額リテイナー型。 月ごとの定額で継続的に関与してもらう方式です。進出後の伴走支援、現地スタッフのマネジメント補助、本社報告の支援などに向きます。月あたりの稼働上限が定義されていないリテイナーは、双方にとって不幸になります。

成果報酬型を提案されることもありますが、「進出」のように成果の定義が難しい領域では、何をもって成果とするかで揉めやすい形です。採用支援のように成果が明確な領域を除けば、慎重に扱うべき類型です。

無料で使える支援と、その適用条件

有料の話をする前に、無料で使える公的支援を確認すべきです。ジェトロ(JETRO)は日本語で相談できる無料サービスを複数持っています。

3つめのプラットフォームは、ドイツではデュッセルドルフに設置されています。現地の知見や地場企業・地元政府当局とのネットワークを活かした相談対応が受けられます。

ただし、ここに重要な落とし穴があります。 このプラットフォームには適用条件があり、申請時点で次の2つを満たす必要があります。

  1. 中小企業基本法上の中小企業(製造業なら資本金3億円以下または従業員300人以下、など業種により異なる)、または産業競争力強化法上の中堅企業(常時使用する従業員数2,000人以下)であること
  2. 常時使用する従業員数が2,000人を超える法人に、直接または間接に100%の株式を保有される事業者ではないこと

2つめが効きます。大手企業の100%子会社は、たとえその子会社自体が小さくても対象外になり得ます。「無料で使えるはずだ」と前提を置いて計画を立てると、着手の段階で崩れます。なお、同プラットフォームの商談アレンジサービスは、欧州と米国では提供されていません。

公的機関の全体像と使い分けはドイツ進出の支援機関:JETRO・AHK・GTAIで整理しています。

どこから有料に切り替えるべきか

無料支援は優れていますが、性質上の限界があります。公的機関は「情報提供と一般的な助言」を担い、「自社のために手を動かすこと」と「結論を出す責任」は担いません。

有料に切り替える境目は、おおむね次の3つです。

自社固有の意思決定が必要になったとき。 「ドイツ市場の一般的な状況」ではなく「自社のこの製品が、この価格で、この顧客層に売れるか」を判断する段階です。

継続的に手を動かす人が必要になったとき。 週次で現地とやり取りし、本社に報告し、業者を管理する——これは相談窓口の仕事ではありません。

守秘性の高い情報を扱うとき。 価格戦略、M&Aの検討、撤退の検討などは、秘密保持契約のもとで進める話になります。

初期投資全体の中でコンサル費用をどう位置づけるかはドイツ進出の初期投資を、事業計画そのものの作り方はドイツ・EU事業計画を参照してください。

見積依頼で必ず聞くべき7つの質問

提案を比較可能にするために、同じ質問を全社に投げてください。

  1. この金額は何人日を想定していますか。 単価と工数に分解してもらいます。
  2. 誰が実際に作業しますか。 提案時に会った人と、実作業者が同じとは限りません。
  3. 成果物は具体的に何ですか。 「レポート」ではなく、ページ数・章構成・データの粒度まで。
  4. スコープ外になるのは何ですか。 含まれないものを明示してもらうと、追加費用の発生点が見えます。
  5. 一次情報をどこまで取りますか。 公開情報の整理だけか、現地へのインタビューを含むか。ここが工数の最大の分岐です。
  6. 日本語の成果物と報告会は含まれますか。 英独の資料だけでは社内が動きません。
  7. 途中で方向を変えられますか。 初期の発見で問いが変わるのは普通のことです。柔軟性が契約に織り込まれているかを確認します。

危険信号

ヒアリング前に金額が出てくる。 スコープが決まる前の見積は、どちらかが後で困ります。

「必ず成功します」と言う。 進出の成否は市場と自社の実行力で決まります。断言する相手は、後で責任を取れません。

成果物のサンプルを見せられない。 守秘義務は理由になりますが、匿名化した構成見本すら出せない場合は、実績を確認する別の方法が必要です。

日本側と現地側が分断されている。 現地の情報は取れるが日本語で説明できない、あるいは日本語は通じるが現地に足場がない——どちらも進出支援では機能しません。

当社の場合

同じ枠組みで説明します。当社は定価を公表していません。理由は本文で述べたとおりで、同じ調査名でも一次調査の有無、対象国数、求める精度によって工数が大きく変わるためです。

進め方は、スコープ確認のヒアリング(無料)→ 調査設計と書面での見積提示 → ご判断、という順序です。ご予算が先に決まっている場合は、その範囲で何がどこまで確かめられるかをお示しします。上記7つの質問は、当社への見積依頼にもそのままお使いください。

そして、お引き受けしない方がよい場合もあります。 公的機関の無料相談で足りる段階、社内に欧州経験者がいて自走できる場合、あるいは問いが「情報が足りない」ではなく「社内の合意が取れていない」場合——いずれも、外部に費用を払う前に解くべき問題が別にあります。

よくある落とし穴

相見積を「総額」だけで比べる。 単価が同程度なら、金額が半分の提案は工数も半分程度です。安い提案が悪いのではなく、何をしない提案なのかを確認しないまま選ぶのが問題です。

無料支援の適用条件を確認しない。 大手企業の100%子会社は、中小企業・中堅企業向けの無料プラットフォームの対象外になり得ます。

通訳・翻訳を別枠と考える。 日本語での報告が必要なら、それは工数です。見積に含まれているかを確認してください。

旅費を見落とす。 BDUの調査では旅費の定額上乗せが平均190ユーロとされています。現地訪問を伴う案件では、旅費や移動時間の扱いを見積の段階で確認してください。

よくある質問

Q. 市場調査だけをお願いすることはできますか。

A. 可能です。調査だけで終える前提で設計すれば、範囲も費用も絞れます。

Q. 日本の会社とドイツの会社、どちらに頼むべきですか。

A. 問いの性質によります。現地の一次情報が要るなら現地の足場が、社内説明と意思決定の支援が要るなら日本語での報告能力が効きます。両方が必要になる場合もあります。

Q. 着手金は一般的ですか。

A. 着手金の有無や支払いの分割は、契約ごとに異なります。条件は契約時に確認してください。

Q. 費用を抑える方法はありますか。

A. 最も効くのは、問いを絞ることです。「ドイツ市場を知りたい」ではなく「この製品がこの顧客層に売れるか」まで絞れば、工数は大きく下がります。

Q. 提案の質を事前に見分けられますか。

A. 上記7つの質問への回答の具体性が、最も分かりやすい指標になります。

まとめ——今週できる次の一歩

ドイツのコンサル単価は、BDUの2025年調査で平均日当1,300ユーロ、パートナー級1,600ユーロ、アナリスト級700ユーロ。これはBDUの調査対象企業の数字ですが、見積を人日に割り戻す物差しとして使えます。

今週できる一歩は2つです。第一に、ジェトロの無料相談の適用条件を確認すること。 自社が中小企業または中堅企業に当たるか、大手の100%子会社ではないか——ここで使える支援の範囲が決まります。第二に、解きたい問いを一文で書くこと。 その一文が具体的であるほど、見積は小さく、比較しやすくなります。

TSM株式会社では、日系企業のドイツ・EU進出について、スコープの整理から調査設計、進出後の伴走までを日本語で支援しています。まずは何にいくらかかるのかを整理したい段階でも、市場調査・分析としてご相談いただけます。

初回相談(無料)はこちら →


本記事は2026年9月22日時点の公開情報に基づいています。料金データおよび公的支援の要件は変更される場合がありますので、実際の意思決定にあたっては最新の公式情報をご確認ください。