「業務委託」という名前では守られない

ドイツの現地法人で人手が足りないとき、外部の人材を使う方法は大きく3つあります。人材派遣会社から派遣を受ける、外部の会社に仕事を請負・業務委託で出す、フリーランスの個人と契約する——の3つです。

どの形でも問題になり得るのが、契約書の名前と実態のずれです。ドイツでは、契約を「業務委託」や「請負(Werkvertrag)」と呼んでいても、実態が派遣であれば労働者派遣法(AÜG)の違反になり、個人が実態として雇用されていれば偽装自営(Scheinselbstständigkeit) として社会保険料の追徴を受けます。日本の「偽装請負」とよく似た構図ですが、違反したときの結果はドイツ独自のものです。

本記事では、労働者派遣を所管する連邦雇用エージェンシー(BA)の労働者派遣法に関する通達(Fachliche Weisungen AÜG、2026年7月1日適用版)を軸に、日系企業が押さえておきたい線引きを整理します。

判断の軸は「誰が指示し、誰の組織に組み込まれているか」

派遣と請負の境目

BAの通達によれば、AÜG第1条1項2文は、労働者が派遣先の労働組織に組み込まれ、派遣先の指示に従う場合に「労働者の派遣」に当たると定めています。派遣先は、派遣労働者を自社の従業員と同じように、自らの考えと目的に沿って働かせます。

これに対して請負(Werkvertrag)では、請負人が自らの経営上の判断で仕事を組み立て、成果に責任を負います。通達は、請負の要素として次の点を挙げています。

  • 個別に特定でき、請負人に帰属させられる成果物の合意と完成
  • 注文者に対する請負人の経営上の裁量
  • 注文者の事業所で作業する場合でも、請負人が自社の従業員に指示すること
  • 瑕疵のない成果物の提供と保証という事業上のリスクの負担
  • 成果に応じた対価の精算と、注文者による検収

逆に、請負を否定する方向に働く事情として、通達は、成果と結び付かない単純な作業だけを求める場合(事務作業、使い走り、データ入力など)、人に対する指示や作業手順についての指示、そして注文者の事業組織への組み込みを挙げています。

役務を提供する契約(Dienstvertrag)についても、通達は同じ基準で判断するとしています。委託先の人員が、提供する役務の実施について注文者側の指示から実質的に自由で、自分で労働時間を決められることが、役務提供契約として認められる前提です。

個人の場合:偽装自営の判断

フリーランスの個人との契約では、社会法典第4編(SGB IV)第7条1項が基準になります。同条は、雇用(Beschäftigung)とは非独立の労働であり、指示に従った活動と指示する側の労働組織への組み込みがその目安になる、と定めています。

判断の軸は、派遣と請負の線引きと同じく「指示」と「組み込み」です。

リスク1:偽装請負(隠れた労働者派遣)

派遣なら契約書に「派遣」と明記する義務

AÜGは、派遣元と派遣先に対して、派遣を始める前に、契約の中で労働者派遣であることを明示し、派遣される労働者を特定することを義務づけています(AÜG第1条1項5文・6文)。通達によれば、2025年1月1日以降、この契約はテキスト形式でも締結できます。

この義務があるため、「本当は派遣だが、契約書は請負にしておく」という形は、それ自体が違反になります。

違反したときに起きること

通達によれば、明示義務に違反した場合、許可なく派遣した場合、または後述の18か月の上限を超えた場合には、次の結果が生じます。

  • 派遣元と労働者の雇用契約が無効になる(AÜG第9条)
  • 派遣先と労働者の間に雇用関係が擬制される。通達は、この関係は完全な雇用関係であり、社会保険法・労働法が原則としてすべて適用される(税法を除く)としています(AÜG第10条)
  • 明示義務や18か月の上限への違反は、税関当局が秩序違反として追及し、最大3万ユーロの過料の対象になる(AÜG第16条)

労働者は、1か月の期限内に「派遣元との契約を維持する」と書面で表明(Festhaltenserklärung)すれば、雇用関係の擬制を避けられます。ただし通達は、この表明は民事上の効果しか持たず、違法な派遣を合法にするものではないとしています。

注意したいのは、委託先が派遣業の許可を持っていても安心できない点です。通達は、許可を持つ事業者が、形式だけ請負とした契約で労働者を派遣した場合も、無許可の派遣と同じ扱いになると明記しています。

なお通達は、EU加盟国の法に服する外国の派遣元については、許可がなくても雇用関係の擬制は生じないとしています。日本の会社が関わる場合の扱いは、個別に確認が必要です。

派遣を正しく使う場合のルール

許可を持つ派遣会社から正規に派遣を受ける場合にも、派遣先として知っておくべきルールがあります。

  • 派遣元にはBAの許可が必要(AÜG第1条1項1文)
  • 同じ派遣先への派遣は最長18か月(AÜG第1条1b項)。労働協約などで別の上限を定めることはできますが、その上限を超えると、前述の雇用関係の擬制と過料の対象になります
  • 9か月後には原則として賃金の均等待遇(Equal Pay)。労働協約で均等待遇から外れている場合でも、同じ派遣先への派遣が9か月を過ぎると、原則として派遣先の比較対象となる従業員と同じ賃金を支払う必要があります(AÜG第8条4項)。より長く外れられるのは、一定の条件を満たす業種別の加算協約がある場合に限られます
  • 派遣労働者に不利な競業に関する取り決めは無効。通達は、派遣労働者に不利な競業に関する取り決め(Wettbewerbsabreden)をAÜG第9条が無効としていると説明しています。ドイツの競業避止の基本は競業避止(Wettbewerbsverbot)の解説をご覧ください

日系企業に特有の3つの場面

日本本社の社員をドイツ法人で働かせる(グループ内の出向)

日本本社の社員が、ドイツの現地法人の指示の下で働く形は、実態として「派遣」に近い構図です。ここで重要なのが、グループ内の派遣の例外(Konzernprivileg) です。

通達によれば、株式法第18条の意味での同じグループ(コンツェルン)内の会社間の派遣には、その労働者が派遣を目的として採用・雇用されていない限り、AÜGは適用されません(AÜG第1条3項2号)。通達は、この例外が多国籍グループ内の国境を越えた出向にも及ぶと明記しています。

ただし、グループ内の他社への派遣だけを事業目的とする会社は、この例外から除外されます。また、採用後に「もっぱらグループ会社に派遣する」と雇用契約を変更した場合も同様です。出向の実務(ビザ、社会保険、税務)はドイツ駐在・出向の準備チェックリストにまとめています。

日本の協力会社・外注先の技術者をドイツで受け入れる

グループ外の日本企業から技術者を受け入れる場合は、状況が大きく変わります。通達は、EU・EEA域外からの労働者派遣は例外なく禁止されており、EU・EEA域外の拠点を起点とする派遣には許可を与えられない、と明記しています(AÜG第3条2項)。

つまり、日本の協力会社の技術者を、ドイツ法人の社員が直接指示して働かせる形は、派遣として適法にする道がありません。受け入れる場合は、協力会社が自社の技術者に指示し、成果物と検収で精算する実態のある請負として組み立てるか、別の方法を検討する必要があります。機械の据付・保守で技術者が入国する場合の入国管理上のルールは、ETIASとドイツ出張の解説で扱っています。

フリーランスの通訳・エンジニアと契約する

現地の個人と業務委託契約を結ぶ場合は、偽装自営のリスクを確認します。フランクフルト商工会議所(IHK)の案内は、偽装自営の目安として、注文者の事業所内での固定された作業場所と固定された勤務時間を挙げています。

偽装自営と判断された場合の結果について、同じ案内は次のように説明しています。

  • 注文者は、使用者負担分と労働者負担分の社会保険料を、最長4年さかのぼって支払う義務を負う
  • 労働者負担分を本人から取り戻せるのは、その後の3回分の給与から差し引く方法に限られる
  • 注文者に故意がある場合は、刑法第266a条(賃金の不払い)の犯罪に当たり得る

社会保険料の全体像はドイツの社会保険料 2026で確認できます。

迷ったら:年金保険の地位確認手続き

個人との契約が雇用か自営かを確定させる手段として、地位確認手続き(Statusfeststellungsverfahren) があります。ドイツ年金保険(DRV)の案内によれば、手続きはDRV連邦のクリアリングステレ(Clearingstelle)が行い、注文者と受注者のどちらからも申請でき、無料で、処理期間は平均で約3か月です。申請はオンラインでもでき、契約書や業務内容の説明など、活動に関する合意をすべて提出します。

判断が難しい契約を始める前に、手続きを使って結論を得ておくと、4年分の追徴という事後のリスクを避けやすくなります。

契約前のチェックリスト

外部人材を使う前に、次の点を確認しておきます。

  • 指示は誰が出すか:作業の手順や時間を、現地法人の社員が個人に直接指示していないか
  • 成果物は特定されているか:契約に、検収できる具体的な成果物と、成果に応じた精算が定められているか
  • 組織に組み込まれていないか:社員と同じ席、同じ勤務時間、社内のシフトや会議体に組み込まれていないか
  • 派遣なら契約に明記したか:派遣であることの明示と、派遣される人の特定を、開始前に済ませたか
  • 日本からの受け入れはどの形か:グループ内の出向か、グループ外の協力会社か。後者なら派遣の形は取れない
  • 個人との契約は確認したか:迷う場合は、開始前に地位確認手続きを検討したか

採用そのものを検討する場合は、ドイツの採用市場の特徴と攻略法や、製造業の欧州雇用契約の改善事例も参考になります。

よくある落とし穴

契約書の名前で安心する。 判断されるのは実態です。「業務委託契約」という題名は、指示と組み込みの実態を覆しません。

委託先が派遣許可を持っているから大丈夫だと考える。 形式だけ請負にした契約で派遣した場合、許可の有無にかかわらず、無許可の派遣と同じ扱いになります。

日本の協力会社の技術者を、現地の指示で働かせる。 EU・EEA域外からの派遣は例外なく禁止されています。

18か月と9か月を管理していない。 正規の派遣でも、上限の超過は雇用関係の擬制と過料につながり、9か月後には均等待遇が原則になります。

よくある質問

Q. 日本本社の社員をドイツ法人に出向させるのは派遣に当たりますか。

A. 同じグループ内の会社間で、その社員が派遣を目的として採用・雇用されていない場合は、AÜGは適用されません。BAの通達は、この例外が国境を越えたグループ内の出向にも及ぶとしています。

Q. 日本の外注先から技術者を派遣してもらえますか。

A. 派遣の形では受け入れられません。EU・EEA域外からの労働者派遣は例外なく禁止されています。外注先が自社の技術者に指示する実態のある請負として組み立てる必要があります。

Q. 派遣許可を持つ会社との請負契約なら、偽装請負にはなりませんか。

A. なり得ます。実態が派遣なのに契約で派遣と明示していなければ、許可があっても無許可の派遣と同じ扱いになります。

Q. フリーランスとの契約が偽装自営だと判断されたらどうなりますか。

A. 注文者は、労働者負担分を含む社会保険料を最長4年さかのぼって支払う義務を負います。故意がある場合は刑法上の責任を問われることもあります。

Q. 事前に確認する方法はありますか。

A. ドイツ年金保険の地位確認手続きを利用できます。注文者・受注者のどちらからも申請でき、無料です。

まとめ——今週できる次の一歩

ドイツでは、外部人材の契約が「業務委託」「請負」と呼ばれていても、指示と組織への組み込みの実態で判断されます。実態が派遣なら、派遣であることの明示義務に反し、派遣先との雇用関係の擬制と最大3万ユーロの過料につながります。個人が実態として雇用されていれば、最長4年分の社会保険料の追徴を受けます。日系企業にとっては、グループ内の出向は例外の対象になり得る一方で、グループ外の日本企業からの派遣は例外なく禁止されている点が分岐点です。

今週できる一歩として、現地法人で働いている外部人材の一覧を作り、一人ずつ「契約の形」「指示を出している人」「働いている場所と時間」の3点を書き出してください。契約の形と実態がずれている人がいれば、それが最初に見直すべき契約です。

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本記事は2026年9月26日時点の公開情報(連邦雇用エージェンシーの労働者派遣法に関する通達、ドイツ年金保険、フランクフルト商工会議所)に基づく一般的な解説であり、個別の法的助言に代わるものではありません。具体的な契約の判断は、専門家にご確認ください。