ドイツでは2025年1月1日から、電子インボイス(E-Rechnung)を受け取れる体制が国内のすべての事業者に求められ、国内の事業者間(B2B)取引での発行の猶予も2027年・2028年に段階的に終わります。本記事では、ドイツ連邦財務省(BMF)のE-RechnungのFAQ(2026年3月版)と2025年10月15日付のBMF通達をもとに、義務の範囲・形式・保存のルールと、日本本社とドイツ子会社がそれぞれ何を変えるべきかを整理します。

なぜドイツ電子インボイスが重要なのか

2024年末までは、メールに添付したPDFも「電子請求書」として扱われていました。2025年1月1日以降、E-Rechnungと呼べるのは、構造化された電子形式で発行・送信・受領され、電子的な処理を可能にする請求書だけです。単なるPDFや紙は「その他の請求書(sonstige Rechnung)」に分類され、経過措置が終わると国内B2B取引では原則として使えなくなります。

BMFはFAQで、導入の目的として請求データの再入力をなくすことに加え、一部の請求情報を取引ごとに電子報告する将来の制度(Meldesystem)の準備を挙げています。EUでも、2025年3月11日に採択された「デジタル時代のVAT(ViDA)」パッケージ(指令(EU) 2025/516)により、加盟国をまたぐB2B取引に2030年7月1日からデジタル報告義務が適用されます。日系企業への影響は、主に請求と仕入税額控除の実務に現れます。

義務化のスケジュール:受領は2025年、発行は2027年・2028年

時期 受領側 発行側
2025年・2026年 すべての国内事業者に受領体制が必要(例外なし) 全事業者が「その他の請求書」を選択可。紙は常に可、PDF等は受領者の同意が必要
2027年 同上 前年売上高80万ユーロ超はE-Rechnungが原則。80万ユーロ以下は年末まで猶予。要件を満たさないEDIも年末まで可
2028年以降 同上 国内B2B取引は原則としてE-Rechnung

FAQは受領について例外を設けておらず、メールの受信箱があれば受領はできるとしています。発行については、経過期間が終わって初めてE-Rechnungが実際に義務になると明記しています。80万ユーロ(約1億4,414万円、2026年9月22日のECB参照レート1ユーロ=180.17円で換算)の基準は発行者の前年売上高で判定されるため、2027年の扱いは2026年の売上で決まります。売上見込みが基準の前後にある場合は、決算を待たずに両方の場合を想定して準備するのが安全です。

規則の版にも注意します。BMFは2025年10月15日付の通達で、2024年10月15日付の通達を改訂・補足するとともに売上税適用通達(UStAE)を改正し、経過措置は2027年12月31日まで考慮するとしています。FAQも2026年3月に更新されています。

経過期間中は「その他の請求書」も仕入税額控除のうえで適正な請求書です。経過期間の終了後にE-Rechnungが義務なのに「その他の請求書」が出された場合、通達はそれを原則として適正な請求書に当たらず、控除の根拠にならないとしています。同じ通達は、適正な請求書がなくても立証によって控除を認める道(UStAE 15.2a第1a項)を残し、内容が正しく完全な請求書であればその要件は通常満たされるとも述べていますが、税務調査で論点を増やさないためには、元の請求書を明示的に参照したE-Rechnungで訂正してもらうのが確実です。

対象になる取引、ならない取引

義務の対象は、発行者と受領者がともにドイツ国内の事業者で、受領者が事業のために取引する場合です。FAQによれば、国内の事業者とは、ドイツ国内に本店(Sitz)、経営管理の場所(Geschäftsleitung)、または取引に関与する事業所(Betriebsstätte)を持つ事業者です。通達は、少なくとも一方が国内に拠点を持たない場合は義務がなく、紙、または受領者の同意を得て電子形式で発行できるとしています。

次の請求書は、国内B2Bでも「その他の請求書」のままで構いません。

  • 税込250ユーロ(約4万5,000円)以下の少額請求書(Kleinbetragsrechnung)
  • 旅客輸送の乗車券等(Fahrausweis)
  • 小規模事業者(Kleinunternehmer)の請求書
  • 最終消費者向け(B2C)や、事業者でない法人向けの請求書

§4第8〜29号UStGで非課税となる取引は、そもそも請求書の発行義務の対象外です。逆に見落としやすいのが、受領者が請求書を作成するGutschrift(自己請求方式)と、国内事業者間のリバースチャージ(§13b UStG)の取引で、いずれも義務が及びます。公的機関向け(B2G)には連邦のE-Rechnungsverordnungなど別の規定があり、B2Gで使う宛先コード「Leitweg-ID」は、B2Bでは原則として不要とされています。

E-Rechnungと認められる形式:XRechnung・ZUGFeRD・EDI

通達によれば、欧州規格EN 16931(公共調達の電子請求に関する指令2014/55/EUを欧州標準化委員会CENが具体化した規格)に準拠する形式は、常にE-Rechnungとして認められます。代表例は次の2つです。

  • XRechnung:EN 16931に基づきドイツで開発された、純粋な構造化データ(XML)の形式。人が読むには表示用のツールが必要です。
  • ZUGFeRD:PDFとXMLを1つのファイルにまとめたハイブリッド形式。バージョン2.0.1以降で、プロファイルMINIMUMとBASIC-WLを除くものが認められます。

EN 16931に準拠する他の欧州の形式も使え、どの形式を使うかは当事者間の民事上の取り決めです。EDIのようにEN 16931から外れる形式も、必要な情報をEN 16931準拠またはそれと相互運用可能な形式へ正しく完全に抽出できれば当事者の合意で使え、この条件を満たさないEDIも2027年末までは認められます。

実務上の要点は4つです。

第一に、ハイブリッド形式ではXMLが正です。 PDFの見た目とXMLが食い違えば構造化データが優先し、仕入税額控除も構造化部分に基づいてのみ認められます。

第二に、税法上の必須記載事項はすべて構造化部分に入れます。 記載事項を添付資料や外部リンクに委ねることはできず、作業時間の明細のような補足情報だけを添付できます。納品書(Lieferschein)を参照して給付内容や給付日を示す方法も、E-Rechnungでは使えません。

第三に、エラーの種類で扱いが違います。 構文などの形式エラーがあるファイルは「その他の請求書」になります。一方、税と関係のない項目(例:XRechnungの「BT-10 Buyer reference」)の欠落は売上税上は問題になりません。検証ツールの結果には商人として相当の注意を払えば依拠でき、検証レポートの保存が勧められていますが、誤った税率のように検証で見つからない誤りもあるため、内容の確認は残ります。

第四に、送信方法は自由です。 メール、ポータル、EDI、API、共有の保存場所などが挙げられ、受領専用のメールアドレスも不要です。XMLの表示には、FAQが税務当局のELSTERのE-Rechnungビューアにも触れています。

保存義務とGoBD

売上税法(§14b UStG)では、発行・受領したすべての請求書の控えを8年間保存します。E-Rechnungでは、少なくとも構造化部分を改変されていない元の形式のまま保存し、税務当局が機械的に評価できる状態を確保しなければなりません。PDFの画像や印刷物だけを残す運用では、この要件を満たせません。

通達は、売上税の観点ではGoBD(電子形式の帳簿・書類の適正な保存とデータアクセスに関するBMFの原則)に適合しないシステムに保存しただけでは§14b違反にならないとしつつ、他の税法上の目的には2025年7月14日付の改正を含むGoBDを参照するよう求めています。BMFの2025年8月6日付プレスリリースは、銀行・保険会社・証券会社の帳簿証憑(Buchungsbelege)の保存期間を10年に延ばす閣議決定を伝える一方、その他の納税者には8年が引き続き適用されるとしています。会社全体の保存体制はドイツGmbHの法定記録と保存義務で整理しています。

日系企業の実務:本社とドイツ子会社で何を変えるか

取引の流れごとの判定

取引の流れ E-Rechnungの義務 判定のポイント
日本本社(ドイツに拠点なし)→ドイツ子会社 なし 一方が国外。紙、または同意のうえ電子形式
ドイツ国内の仕入先→ドイツ子会社 受領体制は2025年から必須 仕入先の発行猶予は2026年末または2027年末まで
ドイツ子会社→ドイツ国内の顧客 2027年または2028年から 2026年の売上高で開始年を判定
ドイツ子会社→他のEU加盟国の顧客 ドイツ法上はなし 相手国の制度は別途確認

FAQによれば、ドイツで売上税の登録をしていても固定的施設(feste Niederlassung)を持たない外国事業者は、E-Rechnungを出さない理由としてその事情を請求書に記載でき、受領者は商人として相当の注意を払えばその記載に依拠できます。日本本社がドイツで登録だけをしている場合に使える整理です。逆に、日本本社のドイツ支店など取引に関与する事業所がある場合は国内の事業者として扱われます。マネジメントフィーなど本社からの請求は義務の対象外でも、記載事項や移転価格の論点は残ります(本社費配賦とマネジメントフィー参照)。

ドイツ子会社の受領側と発行側

受領側は「メールで届けば終わり」ではなく、XMLの検証、表示、承認、XMLのままの保存までの流れを決めておきます。オフィス賃料のような継続的な請求(Dauerschuldverhältnis)は、契約書を添付するなど継続請求であることが明らかなE-Rechnungを初回の期間に1回受け取れば足りますが、賃料改定などで記載事項が変われば新しいE-Rechnungが必要です。

発行側の中心課題は、ERPや会計ソフトからEN 16931準拠のXMLを出力できるかです。Gutschriftや訂正請求書も同じ形式で出せるかを確認し、E-Rechnungの訂正はE-Rechnungで行います。受領者が受け取れない、または拒む場合でも、受領者に紙など別形式の請求書を求める権利はなく、送信記録などで適切な送信を試みたことを示せれば発行者の義務は果たされたとされています。事前に請求書の必須記載事項がXMLの項目に漏れなく対応しているかを確認すると手戻りが減ります。

日本本社の承認とシステム

日本側の稟議や支払承認がPDFの画像を前提にしている場合、法的に正となるXMLと承認者の見ている画面が一致しないおそれがあります。承認画面をXMLから生成するか、検証済みXMLの表示を正本とする運用に切り替えるのが安全です。グループ共通のERPテンプレートで子会社を運用している場合は、変更の主体と費用負担を本社と現地で早めに決めておきます。月次の申告実務とのつながりはドイツVAT(USt)申告完全ガイドで確認できます。

よくある落とし穴

  • ZUGFeRDなら何でもよいと考える:MINIMUMやBASIC-WLで出力すると要件を満たしません。
  • PDFとXMLの不一致を放置する:通達は、画像部分に異なる請求内容があると、別の請求書として§14c UStGの要件の検討対象になりうるとしています。
  • 納品書の参照やPDFの保存に頼る:E-Rechnungでは、給付内容を構造化部分に入れ、XMLを元の形式で保存する必要があります。
  • 継続請求の変更を見落とす:賃料改定後に新しいE-Rechnungを受け取っていない状態は避けます。

よくある質問

Q. 日本本社からドイツ子会社への請求書もE-Rechnungにする必要がありますか? A. 日本本社がドイツ国内に取引に関与する拠点を持たない限り、義務はありません。

Q. 受領のために専用システムは必要ですか? A. FAQは受領にはメールの受信箱で足りるとしています。ただし、XMLの検証・表示・保存の流れがないと、承認や保存の段階で要件を満たせなくなるおそれがあります。

Q. 前年売上高が80万ユーロ以下なら、2027年も紙の請求書を出せますか? A. 2027年末までは「その他の請求書」(紙、または受領者の同意を得たPDF等)を選べます。2028年1月1日以降は原則としてE-Rechnungが必要です。

Q. 日本の「インボイス制度」に対応していれば十分ですか? A. 別の制度です。国税庁によれば、日本のインボイス制度(適格請求書等保存方式)は2023年10月1日に始まった消費税の仕入税額控除の方式です。ドイツでは、記載事項に加えて、請求書が構造化データで発行・送信・受領されるかという形式が問われます。

Q. E-Rechnungで出さなかった場合の罰金はありますか? A. 本記事で参照したBMFのFAQと通達には、形式に特化した罰金の記載はありません。影響は、受領者側の仕入税額控除と、受領者が発行者に適正な請求書の交付を民事上請求できる点に現れます。

まとめ——今週できる次の一歩

判定の鍵は「双方がドイツ国内に拠点を持つか」と「発行者の前年売上高」、実務の鍵は「XMLを正本として扱えるか」です。今週は次の3点から着手できます。

  • ドイツ子会社の請求の流れを洗い出し、上の表で義務の有無と、2026年の売上見込みから発行義務の開始年を確定する
  • 現在の会計ソフトやERPで、XRechnungまたはZUGFeRD(2.0.1以降、MINIMUM・BASIC-WL以外)のサンプルを1件出力し、検証ツールにかける
  • XMLと検証レポートの保存場所と、承認に使う表示方法を決める

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本記事は2026年9月22日時点の公開情報に基づいています。個別の取引の扱いは、ドイツの税理士(Steuerberater)にご確認ください。