日本企業がドイツ拠点に駐在員を送る、あるいは日本国籍の人材を現地採用する場合、避けて通れないのが 就労ビザ(就労目的の滞在許可) です。ドイツは専門人材の受け入れを拡大しており、日本国籍者は制度上恵まれた立場にありますが、「どの類型で申請するか」の選択を誤ると、審査の長期化や給与要件の未達 につながります。
本ガイドでは、日系企業の人事担当者向けに、2026年時点の主要な就労ビザ類型、EUブルーカードの最新給与要件、申請の流れ、実務の落とし穴を整理します。入社後の手続きはドイツ入社手続き・オンボーディングガイド、駐在員の社会保険は日独社会保障協定ガイドも併せてご覧ください。
前提:日本国籍者の優遇ポジション
日本国籍者は、ビザなしでドイツに入国し、入国後に現地の外国人局(Ausländerbehörde)で滞在許可を申請できる 特権国グループ(§41 AufenthV)に属します。米国・英国・韓国・オーストラリアなどと同じ扱いで、多くの国の国民が本国のドイツ大使館でビザを取得してからでないと入国できないのに比べ、手続きの柔軟性が高いのが特徴です。
ただし実務では、就労開始日から逆算すると入国前に大使館で申請したほうが早い ケースも多く、駐在計画に合わせた申請戦略が重要です。滞在許可なしに就労を開始することはできません。
主な就労ビザの類型(2026年)
| 類型 | 根拠 | 対象 |
|---|---|---|
| EUブルーカード | §18g AufenthG | 大卒+一定給与以上の専門人材 |
| 専門人材(Fachkräfte) | §18a/§18b AufenthG | 職業訓練修了者・大卒者 |
| ICTカード(企業内転勤) | §19 AufenthG | グループ内転勤の管理職・専門職(最長3年) |
| 経営者・自営 | §21 AufenthG | 取締役・起業家 |
| オポチュニティカード(Chancenkarte) | §20a AufenthG | ポイント制の求職滞在 |
日系企業の駐在員は、実務上 EUブルーカードまたはICTカード のどちらかを使うことがほとんどです。現地法人と現地雇用契約を結ぶならブルーカード、日本本社に雇用関係を残したままの転勤ならICTカードが基本線になります。
EUブルーカード:2026年の給与要件
ブルーカードの中心的な要件は 大学卒業資格 と 最低年収 です。最低年収は毎年改定され、2026年は次の通りです(RT & Partner、ドイツ外務省の料金・要件一覧)。
| 区分 | 2026年の最低年収(額面) |
|---|---|
| 一般職種 | 50,700ユーロ(月額約4,225ユーロ) |
| 不足職種(Engpassberufe)・若手大卒者 | 45,934.20ユーロ(月額約3,828ユーロ) |
不足職種には、IT専門職、エンジニア、自然科学者、数学者、医師、看護職、製造・建設・物流の管理職、ICTサービス管理職、教員 などが含まれます。IT職は一定の実務経験があれば 大卒資格なしでも 対象になり得ます。
ブルーカードの利点は大きく、最短27ヶ月(ドイツ語B1があれば21ヶ月)で永住許可 を申請でき、配偶者は労働許可付きで帯同できます。給与がこの水準に届く駐在員・現地採用者は、まずブルーカードを検討すべきです。
ICTカード:本社雇用のままの転勤
日本本社との雇用関係を維持したまま管理職・専門職として転勤する場合は ICTカード(EU企業内転勤指令に基づく)が使えます。同一グループへの6ヶ月以上の在籍 が前提で、滞在は 最長3年(その後は他の類型への切替を検討)。給与がブルーカード水準に届かない駐在員や、雇用契約を移したくない場合の受け皿になります。
申請の流れ(現地法人採用の典型例)
- 雇用契約の締結:給与・職務内容を確定(給与要件の判定基準になります)
- 申請書類の準備:パスポート、学位証明、雇用契約書、職務記述書、履歴書など
- 申請:日本のドイツ大使館・総領事館で入国前に申請、または入国後に管轄のAusländerbehördeで申請
- 連邦雇用庁(BA)の同意:類型により労働市場テストなしで内部的に処理
- 許可の交付:電子滞在許可証(eAT)の受領。審査期間は数週間〜3ヶ月程度が目安
入国後は 住民登録(Anmeldung) が滞在許可申請の前提になります。住所確保と登録の段取りは入社手続き・オンボーディングガイドにまとめています。制度の公式情報はMake it in Germany(ドイツ政府公式ポータル)と§18g AufenthG条文で確認できます。
家族帯同と永住
配偶者・未成年の子は帯同可能で、ブルーカード保持者の配偶者はドイツ語要件なしで入国でき、就労も無制限 に認められます。永住許可(Niederlassungserlaubnis)は、ブルーカードなら前述の21〜27ヶ月、その他の就労滞在では通常5年(専門人材は3年)が目安です。
日系企業の実務でつまずくポイント
- 給与要件の「額面」判定:現物給与や日本払い分の扱いは事前に確認が必要です。駐在員の給与設計はドイツ給与計算の実務2026を参照してください。
- 学位の証明:日本の大学の学位は、データベース(anabin)での認定状況の確認が必要になる場合があります。
- 予約が取れない:大都市のAusländerbehördeは予約が数ヶ月待ちのことがあります。着任日から逆算し、可能なら大使館での事前申請を選びます。
- 社会保険の二重加入:日本雇用を残す派遣形態では、日独社会保障協定の適用証明の取得を忘れずに。
- 滞在許可と労働開始のズレ:許可が出る前の就労開始は違法です。オンボーディング日程は許可取得を待って確定します。
現地採用(外国籍人材)の場合の注意点
ドイツ拠点が日本国籍以外の人材(例えば第三国籍のエンジニア)を採用する場合は、話が変わります。特権国グループに入らない国籍では、本国のドイツ大使館でのビザ取得が入国の前提 となり、リードタイムは数ヶ月単位で見る必要があります。また、職業資格が規制職種(医療・法務など)に当たる場合は 資格の承認(Anerkennung) 手続きが先行します。採用オファーを出す前に、候補者の国籍・学位・職種から必要な手続きと期間を逆算しておかないと、入社日が大幅に遅れて配属計画が崩れます。
なお、既にドイツ国内で他社のブルーカードで働いている人材を中途採用する場合、最初の12ヶ月以内の転職には当局の関与 があり得る一方、それ以降は原則自由です。ブルーカード保持者の引き抜き採用は、実務上もっともスムーズな外国籍採用ルートのひとつです。
滞在許可の更新・切替の実務
滞在許可には必ず有効期限があり、期限管理は会社側でも台帳化 しておくべきです。期限切れのまま就労させると、本人だけでなく 使用者にも過料 が科され得ます。更新は期限の8週間前を目安に予約を確保します。パスポートを更新した場合、滞在許可カード(eAT)との紐付け直しが必要になる点も駐在員から質問の多いポイントです。
ICTカードは最長3年で延長不可のため、駐在期間が延びる場合は ブルーカードや通常の就労滞在への切替 を早めに検討します。切替時にも給与要件はその年の閾値で再判定されるため、駐在延長の判断は毎年の閾値改定(例年1月)とセットで行うのが安全です。
よくある質問(FAQ)
Q. 日本人はビザなしで入国して働けますか。 A. 入国はビザなしで可能ですが、就労には滞在許可が必要です。入国後にAusländerbehördeで申請できます。
Q. ブルーカードの給与要件に届かない場合は。 A. 不足職種の低い閾値(2026年:45,934.20ユーロ)に該当するか確認し、該当しなければ専門人材ビザ(§18a/b)やICTカードを検討します。
Q. 取締役(Geschäftsführer)として赴任する場合は。 A. 経営者としての滞在許可(§21等)や通常の就労類型を用います。取締役の法的責任はドイツGmbH取締役の要件と責任を参照してください。
実務チェックリスト
- 駐在員の雇用形態(現地契約か本社雇用のままか)を決めたか
- 給与が2026年のブルーカード要件(50,700/45,934.20ユーロ)を満たすか確認したか
- 学位証明・職務記述書など申請書類を揃えたか
- 大使館申請か入国後申請か、着任日から逆算して決めたか
- 社会保障協定の適用証明を申請したか
まとめ
ドイツの就労ビザは、日本国籍者にとって取得しやすい部類ですが、類型の選択と給与要件の設計 が成否を分けます。ブルーカードの給与閾値は毎年上がるため、駐在員の報酬パッケージは最新の数値で設計してください。
TSM合同会社では、駐在員派遣・現地採用に伴うビザ類型の整理、申請準備、入社後の労務セットアップまで、現地専門家と連携して一貫サポートしています(人材採用支援の詳細はこちら)。
本記事は2026年7月11日時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法務助言に代わるものではありません。給与要件・手続きは毎年改定されるため、最新の公式情報をご確認ください。