「出荷前」に終わらせる義務——包装法を見落とすと、そもそも売れない

ドイツ・EUへ製品を出すとき、日系企業はCEマーキングや食品表示といった「製品そのもの」の規制には気を配ります。ところが、その製品を包む包装(Verpackung)にも独立した義務があることは、驚くほど見落とされます。それが、ドイツの包装法(VerpackG、Verpackungsgesetz)です。しかもこの義務は、商品を市場に出す前に済ませておかなければならない——後から追いつく類のものではありません。

包装法の怖さは、未対応だと販売そのものが止められる点にあります。登録がなければ、ドイツのオンラインマーケットプレイスは出品を止め、競合からは不正競争として警告(Abmahnung)を受けかねない。つまり、包装法は「環境の話」である以前に、市場に出られるかどうかの入口の話です。本記事は、日系企業がドイツで販売を始める前に、誰が義務を負うのか、LUCID登録・システム参加・データ報告という三つの義務、2022年7月からの拡大、大量排出者の完全性宣言、そして使い捨てプラスチック基金という別の義務までを、出荷前の段取りとして整理します。規制全体の地図はEU製品規制の全体像もあわせてご覧ください。

包装法(VerpackG)とは:拡大生産者責任とLUCID

包装法は、包装廃棄物の回収・リサイクルの費用を、その包装を市場に出した事業者に負担させる——いわゆる拡大生産者責任(EPR)を定めた法律です。運用の中核が、LUCID(ルシード)と呼ばれる包装登録簿で、これを運営するのがZSVR(Zentrale Stelle Verpackungsregister、包装登録中央機関)です。

仕組みそのものは明快です。包装を市場に出す事業者は、まずLUCIDに登録し、次に回収・リサイクルを担う民間のデュアルシステム(duales System)と契約して費用を負担し、出した包装の量を報告する。この透明化によって「ただ乗り」を防ぎ、リサイクル費用を公平に分担させる——それが包装法の狙いです。日系企業にとっては、ドイツで物を売る以上、避けて通れない土台の義務になります。単なる製品規制とは別建ての、包装そのものへの義務だという点をまず押さえてください。

誰が義務を負うか:「Hersteller」=最初に市場に出す者

最大の誤解が、「包装の義務は、包装材メーカーの話だろう」というものです。違います。包装法の「Hersteller(製造者)」とは、空の包装を作る者ではなく、商品を詰めた包装をドイツで初めて業として流通させる者、またはドイツに輸入する者を指します。

含意は日系企業にとって直接的です。日本から製品をドイツの顧客へ直接出荷するなら、あるいはドイツ現地法人が輸入して販売するなら——あなた(またはその現地法人)が「Hersteller」として義務者になります。「本社は日本にあるから関係ない」は通りません。むしろ、ドイツ市場に最初に包装を持ち込む者が責任を負う設計だからこそ、越境ECや輸入販売を行う日系企業こそ、真っ先に確認すべき論点です。輸入者としての一般的な責任は輸入者責任の実務もあわせてご覧ください。

三つの義務:LUCID登録・システム参加・データ報告

包装法の義務は、大きく三つに整理できます。

第一に、LUCID登録。 商品を市場に出す前に、ZSVRが運営するLUCIDに登録します。登録そのものは無料で、オンラインで行います。ここで発行される登録番号が、以降のすべての手続きの前提になります。重要なのはタイミングで、ドイツで包装商品を一つでも市場に出す前に完了していなければなりません。

第二に、システム参加(Systembeteiligung)。 家庭で捨てられる典型的な販売包装(Verkaufsverpackung)について、民間のデュアルシステムと契約し、ライセンス費用を支払います。登録は無料でも、この費用は実費として発生し、包装の材質・重量・量に応じて決まります。ここが包装法の「コスト」の中心です。

第三に、データ報告(Datenmeldung)。 デュアルシステムに申告した包装量と同じ数量を、LUCIDにも報告します(ZSVRのデータ報告)。両者の数字が一致していることが求められ、ズレは是正の対象になります。登録・参加・報告——この三点が揃って、はじめて適法にドイツで販売できます。どれか一つでも欠ければ「対応済み」にはなりません。

すべての包装が登録対象に:2022年7月の拡大

制度は2022年に大きく広がりました。2022年7月1日以降、LUCID登録の義務は、家庭ごみになる販売包装だけでなく、すべての種類の包装に拡大されました。輸送用包装(Transportverpackung)や、繰り返し使う包装(Mehrwegverpackung)など、これまで登録が不要だった包装も、市場に出す前の登録が必要になっています。

同時に、オンラインマーケットプレイスとフルフィルメント事業者に「確認義務(Prüfpflicht)」が課されました。プラットフォーム運営者は、出品する事業者が包装法上の登録義務を果たしているかを確認しなければならず、未登録の事業者は出品・販売を止められます。越境ECでドイツの消費者に売る日系企業にとって、これは死活問題です。LUCID登録番号がなければ、そもそも大手モールに並べられない。ネット販売の実務はドイツのeコマースもご確認ください。

完全性宣言(Vollständigkeitserklärung):大量排出者の年次義務

一定量を超える事業者には、さらに完全性宣言(Vollständigkeitserklärung、VE)という年次の義務が加わります。これは、市場に出した包装量を正しく申告したことを証明する宣言で、登録された鑑定人(Sachverständiger)による監査を受け、電子的にZSVR(Zentrale Stelle)へ提出します。

対象になるのは、§11 VerpackGの閾値を超える事業者です。具体的には、年間でガラス8万kg、紙・板紙5万kg、その他(プラスチック・金属・アルミ・複合材の合計)3万kgのいずれかを超える場合に、提出義務が生じます。提出期限は毎年5月15日です。多くの中小の日系現地法人はこの閾値に達しませんが、包装量の多い事業(飲料・食品・大量出荷)では現実的な論点になります。自社がこの水準に近いなら、監査の段取りを前もって組んでおくことが必要です。

使い捨てプラスチック基金(Einwegkunststofffonds):包装法とは別の義務

見落としやすいのが、包装法とは別枠の新しい義務です。使い捨てプラスチック製品を市場に出す事業者は、使い捨てプラスチック基金(Einwegkunststofffondsgesetz)に基づき、連邦環境庁(UBA)のプラットフォームDIVIDに登録し、年次の分担金(Abgabe)を支払う必要があります。

UBAによれば、DIVIDは2024年4月1日から段階的に稼働し、テイクアウト用の食品容器やたばこのフィルターなど、所定の使い捨てプラスチック製品の製造者が対象です(対象は約5万6千社と見込まれています)。2024年1月1日時点で事業を行っていた事業者は2024年末までに登録、データ報告は2025年から(2024年分)、支払いも2025年から始まりました。テイクアウト容器などを扱う飲食・小売系の日系企業は、包装法(LUCID)とこの基金(DIVID)の二つの登録が必要になり得る点に注意してください。

費用と出荷前の段取り

コスト構造を整理します。LUCID登録は無料。実費がかかるのは、デュアルシステムのライセンス費用(材質・重量・量で変動)、大量排出者の完全性宣言の監査費用、そして該当すればDIVIDの分担金です。つまり「登録は無料でも、参加は有料」。この違いを最初に理解しておくと、予算化を誤りません。

出荷前の段取りは、次の順が実務的です。まず自社の包装を材質・種類ごとに把握する。次にLUCIDに登録して番号を得る。デュアルシステムと契約してシステム参加を済ませ、包装量をLUCIDにも報告する。閾値を超えるなら完全性宣言の監査を手配し、使い捨てプラスチック製品を扱うならDIVIDも確認する。この一連を、最初の一箱を出荷する前に終える——それが包装法の要諦です。輸入の全体像は輸入の関税とHSコード、食品の表示は食品表示と輸入要件とあわせて設計してください。

よくある落とし穴

製品規制だけ見て、包装を忘れる。 CEマーキングや食品表示に気を取られ、包装のEPRを見落とすと、対応済みのつもりで出荷できません。製品と包装は別の義務です。

「日本企業だから対象外」と思い込む。 義務者は、ドイツで最初に包装を市場に出す者。直接出荷でも現地法人経由でも、日系企業自身が「Hersteller」になります。

登録だけして満足する。 LUCID登録は入口にすぎません。デュアルシステムへの参加(有料)とデータ報告まで揃えて、はじめて適法です。

出荷後に登録しようとする。 登録は「市場に出す前」が絶対条件です。未登録のままの出荷は、マーケットプレイスでの出品停止や警告(Abmahnung)、そして罰金の対象になります。

マーケットプレイスの確認義務を軽視する。 2022年7月以降、プラットフォームは未登録の出品者を排除します。番号がなければ、そもそも売り場に載りません。

使い捨てプラスチックの基金を包装法と混同する。 DIVID(使い捨てプラスチック基金)は別枠の登録・分担金です。テイクアウト容器などを扱うなら、二重に確認します。

よくある質問

Q. 包装法(VerpackG)とは何ですか。 A. 包装廃棄物の回収・リサイクル費用を、包装を市場に出した事業者に負担させる拡大生産者責任(EPR)の法律です。中核が包装登録簿LUCIDで、ZSVR(包装登録中央機関)が運営します。

Q. 日本の会社も対象ですか。 A. はい。ドイツで商品を詰めた包装を最初に市場に出す者、またはドイツに輸入する者が「Hersteller」として義務を負います。日本からの直接出荷や現地法人の輸入販売も対象です。

Q. 何をすればよいですか。 A. 三つです。市場に出す前にLUCIDへ登録し(無料)、デュアルシステムと契約してシステム参加(有料)を行い、包装量をLUCIDに報告します。

Q. 登録は有料ですか。 A. LUCID登録自体は無料です。費用が発生するのは、デュアルシステムのライセンス費用(材質・重量・量で変動)や、該当する場合の完全性宣言の監査、使い捨てプラスチック基金の分担金です。

Q. 完全性宣言(VE)はいつ必要ですか。 A. 年間でガラス8万kg、紙・板紙5万kg、その他3万kgのいずれかを超える場合です。登録鑑定人の監査を受け、毎年5月15日までにZSVRへ電子提出します。

Q. 違反するとどうなりますか。 A. 未登録は最大10万ユーロ、システム不参加は最大20万ユーロの罰金があり得ます。加えて販売禁止(Vertriebsverbot)や、マーケットプレイスでの出品停止、不正競争としての警告のリスクもあります。

Q. テイクアウト容器を扱います。追加の義務はありますか。 A. 使い捨てプラスチック基金(DIVID、UBA運営)への登録と分担金が別途必要になり得ます。包装法(LUCID)とは別枠として確認してください。

まとめ:今週できる次の一歩

ドイツの包装法は、次の順で押さえると外しません。まず、自社が「Hersteller」に当たるかを確認する(ドイツで最初に包装を市場に出すなら該当)。次に、出荷前にLUCIDへ登録(無料)し、デュアルシステムと契約してシステム参加(有料)とデータ報告を済ませる。そのうえで、包装量が多ければ完全性宣言(5月15日・監査)を、使い捨てプラスチック製品を扱えばDIVIDを確認する。

包装法は、環境対応であると同時に、市場に出られるかどうかの入口です。登録は無料でも、参加は有料——そして何より、すべては「最初の一箱を出す前」に終えておく。ここを段取りしておくことが、出品停止や罰金という手戻りを防ぎます。

TSM株式会社では、日系企業のドイツ・EU展開について、包装法(VerpackG)の義務の切り分け、LUCID登録とデュアルシステム参加の段取り、完全性宣言や使い捨てプラスチック基金(DIVID)の要否確認まで、日本語で支援しています。規制・コンプライアンス体制づくりは法務・コンプライアンス支援サービスをご覧ください。包装の義務を出荷前に固めるほど、ドイツでの立ち上げは滞りなく進みます。

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本記事は2026年8月14日時点の法令・公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の法務助言ではありません。包装法(VerpackG)や使い捨てプラスチック基金の要件・閾値・費用は改定や個別事情により異なるため、実務にあたってはZSVRの公式情報やドイツの専門家による確認をお取りください。