日本の食品をドイツで販売するには、ラベルをEUの食品表示規則とドイツ語に合わせて作り直し、表示の責任を負うEU域内の事業者を決め、原材料に動物由来のものがあれば輸入時の検査区分を確認する必要があります。本記事は、日本のメーカーがドイツの輸入業者を通じて輸出するケースを前提に、表示・輸入規制・有機認証・ドイツの食品監視を、条文と公的機関の情報に基づいて整理します。
表示の責任はEU域内の輸入者が負う
EUの食品表示の基本は規則(EU)No 1169/2011(ドイツではLMIVと略称)で、2014年12月13日から適用され、栄養成分表示の義務は2016年12月13日から適用されています(第55条)。第8条1項は、表示の責任を負う事業者を「その名称で食品が販売される事業者、その事業者がEU域内にない場合はEU市場への輸入者」と定めています。日本のメーカー名で販売しても、EU域内に拠点がなければ責任は輸入者にあり、ラベルにはその名称と住所を表示します(第9条1項(h))。
表示に関与しない事業者も、不適合と知りながら、または不適合と推定される食品を供給してはならず(第8条3項)、事業者間の取引では相手が義務を果たせるよう十分な情報を渡す義務があります(同8項)。輸入者は自らの責任でラベルを確認する立場にあるため、日本のメーカーは配合、アレルゲン、栄養成分の根拠資料をすぐ出せるよう準備しておく必要があります。商流の選び方は商社経由と直接取引の違いも参考にしてください。
なお、福島第一原発事故後にEUが課していた日本産食品の輸入規制は、欧州委員会が2023年7月13日に解除を発表しました。2021年9月の時点で対象は野生のきのこ・一部の魚種・山菜類に絞られており、解除により輸出前の放射性物質検査も不要になりました(駐日欧州連合代表部)。現在は他国産と同じEUの一般ルールで判断します。
必須表示12項目と文字サイズ・栄養成分表示
第9条1項は、次の12項目を必須としています。
| 項目 | 主なポイント |
|---|---|
| 名称 | 法定名、なければ慣用名・説明的名称 |
| 原材料 | 重量順 |
| アレルゲン | 附属書IIの14品目を強調表示 |
| 一部の原材料の量 | 該当する場合 |
| 正味量 | — |
| 賞味期限・消費期限 | — |
| 保存・使用条件 | 特別な条件がある場合 |
| 責任事業者の名称・住所 | 第8条1項の事業者 |
| 原産国・原産地 | 第26条の場合 |
| 使用方法 | ないと適切に使えない場合 |
| アルコール度数 | 1.2%超の飲料 |
| 栄養成分表示 | 7項目、100 g・100 ml当たり |
文字の大きさは、x-height(小文字xの高さ)1.2 mm以上、包装の最大面が80 cm²未満なら0.9 mm以上です(第13条)。最大面が10 cm²未満の包装では、名称・アレルゲン・正味量・期限だけを包装に表示し、原材料は別の方法で提供できます(第16条2項)。栄養成分表示はエネルギー、脂質、飽和脂肪酸、炭水化物、糖類、たんぱく質、食塩の7項目を100 gまたは100 ml当たりで示します(第30条・第32条)。附属書Vの免除対象には、香料以外を加えていない茶(第8号)や最大面25 cm²未満の包装(第18号)などがあります。
アルコール分1.2%超の飲料は、EU規則上は原材料表示と栄養成分表示が義務ではありません(第16条4項)。ただしアルコール度数とアレルゲンの表示は必要で、原材料表示がない場合は「含む(contains)」に当たる語に続けて品目名を示します(第21条)。加盟国は原材料表示について国内措置を維持でき(第41条)、ドイツではビールに原材料表示が求められます(連邦食料・農業・郷土省(BMLEH))。日本酒とクラフトビールでは扱いが異なります。
原産国は、表示しないと消費者が誤認するおそれがある場合に表示が義務となります(第26条2項)。原産国を表示し、主原料の原産国がそれと異なる場合は、主原料の原産国も示すか異なる旨を示します(同3項、細目は実施規則)。オンライン販売では、期限を除く必須情報を購入前に示す必要があります(第14条)。
アレルゲン:EUの14品目と日本の表示制度のずれ
附属書IIの14品目は、グルテンを含む穀物、甲殻類、卵、魚、落花生、大豆、乳、ナッツ類(アーモンド・くるみ・カシューナッツなど8種)、セロリ、マスタード、ごま、二酸化硫黄・亜硫酸塩(SO₂換算で10 mg/kgまたは10 mg/l超)、ルピナス、軟体動物です。原材料表示の中で、書体・スタイル・背景色などで他と区別して強調します(第21条1項(b))。
消費者庁のハンドブック(2024年3月改訂)では、大豆・ごま・さば・いかは表示が推奨される「特定原材料に準ずるもの」にとどまり、セロリ・マスタード・ルピナス・亜硫酸塩は対象外です(消費者庁)。日本のラベルで表示していない成分が、EUでは義務になるということです。見落としやすいのは調味料やエキスで、かつお節・煮干しのだしは「魚」、ほたてエキスやオイスターソースは「軟体動物」、小麦を使う醤油は「大豆」と「グルテンを含む穀物」に当たります。原材料を仕入先の規格書までさかのぼり、「原材料の原材料」単位で14品目との対応表を作ることが、ラベル作成の出発点です。
ドイツ語表示とドイツ独自のルール
EU規則は、必須情報を販売国の消費者が容易に理解できる言語で示すことを求め、加盟国がEUの公用語から言語を指定することを認めています(第15条)。多言語表示も可能です。ドイツの施行令(LMIDV)では、ドイツで販売する食品は原則としてドイツ語で表示します。LMIDVは違反時の制裁規定や、任意表示であるNutri-Scoreの利用条件も定めています(BMLEH:国内法での実施、BMLEH:必須表示)。
輸入時の規制:動物由来原料と複合製品
EUに入る動物や物品の共通衛生入域文書(CHED)は、2019年12月14日からTRACESでの発行が義務になっています(欧州委員会:TRACES)。日本の加工食品で注意したいのが「複合製品」です。植物性原料と加工された動物性原料(乳・卵・水産品・肉エキスなど)を組み合わせた食品を指し、常温保存できないものや肉製品を含むものは、生産国の当局が署名する公的証明書と国境管理ポストでの検査が必要です。常温保存でき肉製品を含まないものは、輸入事業者の代表者が署名する自己宣誓書(private attestation)で入れますが、低リスク品として別途列挙されたもの以外は国境での検査対象です。いずれの場合も、含まれる動物性原料はEUが承認した国の承認施設で製造されている必要があります(欧州委員会:複合製品)。
動物性以外の食品でも、特定の第三国産の品目が実施規則(EU)2019/1793の附属書I・IIに掲載されると輸入時の公的管理が一時的に強化され、一覧は半年ごとに更新されます(BVL:国境を越える取引)。成分面では、1997年5月15日より前にEUで相当程度消費されていなかった食品は新規食品として事前認可が必要で、該当するか不明なら最初に販売する加盟国の当局に照会します(欧州委員会:新規食品)。食品添加物はEUのリストに載ったものだけが使え(欧州委員会:食品添加物)、残留農薬は個別基準のない農薬に一律0.01 mg/kgが適用されます(欧州委員会:残留基準)。日本で使う農薬にEUの個別基準がなければ、茶葉なども一律基準で判定されます。関税の分類はドイツ輸入の関税とHSコードで解説しています。
有機食品:有機JASとEUの同等性
日本は、EUの有機規則(EU)2018/848の下で同等性を認められた国の1つです(欧州委員会:有機製品の貿易)。農林水産省によれば、対象は日本で生産・加工・格付された有機農産物、有機畜産物、有機加工食品(酒類を含み、有機藻類加工食品を除く)で、有機酒類と有機畜産物は2025年5月18日から輸出できるようになりました(農林水産省:プレスリリース)。有機加工食品の原材料は有機JASマーク付きのものに限られ、証明書はEUに登録された登録認証機関がTRACESで発行し、ラベルには認証機関のコード番号(JP-BIO-XXX)と原料の生産地をロゴと同じ面に記載します(農林水産省:日本とEUの有機同等性)。欧州委員会によれば、電子の検査証明書がなければ貨物はEUの到着港から搬出できません。
期限にも注意が必要です。欧州委員会の2025年12月17日付の発表によれば、日本を含む11か国の同等性承認は2026年12月31日が期限で、委員会はこれを延長する改正を提案していますが、欧州議会と理事会の採択が必要です(欧州委員会:有機規則の見直し)。2027年以降の出荷を計画している場合は、最新の状況を必ず確認してください。
ドイツの食品監視は州の仕事
ドイツの食品監視(Lebensmittelüberwachung)は州の任務です。BVLによれば、大半の州では州の省庁、行政管区、郡・市の3層で組織され、現場の検査は食品・獣医監視局が行います(BVL:食品監視は州の任務)。BVLは連邦と州の調整役として、多年度の監視計画や全国監視計画を担います(BVL:公的な食品監視)。表示に不備があれば、当局の照会は表示責任者である輸入者に向かいます。日本側が規格書や分析結果をすぐ出せる体制が、輸入者との信頼を左右します。
輸入業者経由で輸出する日本メーカーのチェックリスト
- 表示責任者となる輸入者と、ラベルに記載する名称・住所を合意する
- 原材料を「原材料の原材料」まで分解し、14アレルゲンとの対応表を作る
- 動物性原料の有無を洗い出し、複合製品の区分と製造施設の承認状況を輸入者と確認する
- 添加物のEUリスト、農薬の残留基準、新規食品への該当性を照合する
- 100 g(100 ml)当たり7項目の栄養成分値を、分析または計算の根拠付きで用意する
- ドイツ語のラベル原稿を作り、文字の高さを版下で確認する
- 有機表示をする場合は、検査証明書、JP-BIOコード、原料の生産地表示を準備する
- 包装材の登録を誰が行うか決める(ドイツで包装された商品を流通させる事業者にはLUCIDへの登録が求められます。中央包装登録機関、ドイツ包装法(VerpackG)とLUCID登録)
よくある落とし穴
1つ目は、日本向けの一括表示をそのまま翻訳することです。EU規則は項目と表現を独自に定めているため、第9条の12項目に沿って作り直す方が確実です。2つ目は、だしやエキスに含まれるアレルゲンの見落としです。日本のラベルに記載がなくても、魚や軟体動物はEUでは強調表示の義務があります。3つ目は「テスト販売だから日本語ラベルのままでよい」という判断です。規則は最終消費者向けのすべての食品に適用されるため(第1条3項)、販売する以上はテスト販売でも同じ表示が必要です。展示会や商談で配るサンプルの扱いはドイツのサンプル配布で整理しています。4つ目は、乳や卵を使う菓子が複合製品に当たると輸入直前に気づくケースです。原料の製造施設がEUの承認を受けていなければ、処方か調達先の変更が必要になります。
よくある質問
Q. ラベルの事業者欄は日本のメーカー名だけでよいですか? A. EU域内に拠点がない場合、表示の責任は輸入者が負い、その名称と住所の表示が必要です(第8条1項・第9条1項(h))。
Q. 日本酒にも原材料表示は必要ですか? A. アルコール分1.2%超の飲料は、EU規則上は原材料表示と栄養成分表示が義務ではありません。ただしアルコール度数とアレルゲンの表示は必要で、ドイツではビールに原材料表示が求められます。
Q. 英語のラベルでドイツで販売できますか? A. ドイツの施行令では原則としてドイツ語表示が必要です。英語など他の言語との併記はできます。
Q. 福島の事故に関する輸入規制はまだありますか? A. 欧州委員会は2023年7月13日に解除を発表しており、現在は他国産と同じEUの一般ルールが適用されます。
Q. 緑茶に栄養成分表示は必要ですか? A. 香料以外を加えていない茶は附属書Vにより免除されます。抹茶ラテの粉末のように糖類や乳を加えた製品はこの免除に当たりません。
まとめ——今週できる次の一歩
日本食品のドイツ輸出は、表示責任を負う輸入者の決定、EU規則とドイツ語に沿ったラベルの作り直し、動物性原料と複合製品の確認、有機の場合の同等性と期限の確認が柱です。今週できる一歩は、輸出候補の1品目について、原材料を規格書までさかのぼった「アレルゲン・動物性原料の対応表」を作ることです。この1枚で、輸入者との協議、ラベル原稿、複合製品の区分判断を同時に進められます。販路づくり全体は食品・飲料向け:欧州の参入戦略(直販/代理店/合弁)もご覧ください。
TSM株式会社では、日本食品のドイツ・EU展開に向けて、適用される規制の洗い出しと、輸入者や現地の食品規制の専門家との連携体制づくりをお手伝いしています。法規制の初期整理・専門家連携としてご相談いただけます。
本記事は2026年9月22日時点の公開情報に基づいています。個別製品の表示・輸入可否は、輸入者や食品規制の専門家にご確認ください。