MDRは「CEマーキングの医療機器版」——だが桁違いに重い

医療機器をEU・ドイツで売るには、EU医療機器規則(MDR、Medical Device Regulation) への適合が入口になります。仕組みとしてはCEマーキングの医療機器版ですが、要求される内容は桁違いに重い。臨床的根拠、認証機関(Notified Body)の関与、トレーサビリティ(UDI)、EUデータベース(EUDAMED)への登録、そしてEU域内の代理人——一般消費財のCE適合とは、負担がまるで違います。

しかも、MDRは旧・医療機器指令(MDD)を置き換えて要件を全面的に厳格化しました。日本のメーカーが「これまで通りの認証で入れる」と考えると、市場に出せません。本記事は、日系メーカーがEU・ドイツで医療機器を展開するために、MDRとは何か、クラス分類と認証、日本メーカーに必須の役割(授権代理人・輸入者・PRRC)、UDI・EUDAMEDとドイツのBfArM、そして経過措置の期限までを整理します。製品規制の全体像はEU製品規制の全体像、機械などの安全規制は機械安全規格とあわせてご覧ください。

MDRとは:規則2017/745、2021年適用、MDDを置き換え

MDRは、規則(EU)2017/745で、2021年5月26日から適用されています。従来の医療機器指令(MDD、93/42/EEC)と能動埋込型医療機器指令(AIMDD、90/385/EEC)を置き換えたものです。欧州委員会によれば、MDRは過去20年の技術発展に合わせ、安全性の水準を高めつつ、より堅牢で透明な規制枠組みを目指しています。

具体的に強化されたのは、臨床的根拠(clinical evidence) の要求、トレーサビリティ(UDIによる個体識別)、EUDAMED(欧州医療機器データベース) による透明化、そして認証機関(Notified Body)の監督です。なお、体外診断用医療機器(IVD)には、姉妹規則のIVDR(規則(EU)2017/746)が別途適用されます。MDRは「指令」ではなく「規則」であり、EU全域に直接適用される点も、旧制度との違いです。

クラス分類とNotified Body

MDRは、医療機器をリスクに応じてクラスI・IIa・IIb・IIIの4段階に分類します。リスクが高いほど、規制は厳しくなります。認証機関TÜV SÜDの解説によれば、クラスIは自己適合宣言(self-certification) で足りる一方、それより上のクラス(IIa・IIb・III)は、Notified Body(認証機関、ドイツではBenannte Stelle)による適合性評価を受け、CEマーキングを付す必要があります。

つまり、自社製品がどのクラスに当たるかで、必要な手続き・時間・コストが大きく変わります。まずクラス分類を正しく見極めることが出発点です。クラスが上がるほど、臨床評価や技術文書の要求は重くなり、認証機関の関与も深くなります。CEマーキングの一般的な流れはCEマーキング完全ガイドを参照してください。

日本メーカーの必須要素:授権代理人・輸入者・PRRC

ここが、日本のメーカーが最も見落とす部分です。MDRは、EU域外の製造者に対し、EU域内の「授権代理人(Authorised Representative、独:Bevollmächtigter)」の選任を義務づけます。MDR第11条は、「製造者が加盟国内に設立されていない場合、単一の授権代理人を選任しない限り、機器をEU市場に出せない」と定めます。授権代理人は、EU適合宣言・技術文書の存在確認、登録、当局対応、ビジランス(安全性情報)対応などを担い、しかも第11条5項により、欠陥製品について製造者と連帯して責任を負い得ます。

加えて、EU域内の輸入者も経済事業者として責任を負い(輸入者責任の実務)、製造者はPRRC(Person Responsible for Regulatory Compliance、規制適合責任者、第15条) を少なくとも一人、社内に置く必要があります。日本の製造者にとっての含意は明確です——EU域内に、代理人・輸入者・規制対応の体制を用意しなければ、そもそも市場に出せない。ここを設計せずに製品だけ準備しても、前に進みません。

実務では、授権代理人の選び方も重要です。授権代理人の名称と住所は、原則として機器のラベルや添付文書に表示することが求められ、いわば「EUにおける製造者の窓口」になります。輸入者や販売店に兼ねさせると利益相反や責任範囲が曖昧になりやすく、独立した専門の代理人サービスを使う選択肢もあります。PRRC(規制適合責任者)についても、規制・品質管理に関する必要な資格と経験を備えた人を確保する必要があり(第15条)、名ばかりの任命では機能しません。これらのEU域内体制は、製品開発と切り離さず、早い段階から並行して設計しておくことが肝心です。

UDI・EUDAMEDとドイツのBfArM

MDRは、機器の追跡可能性と登録を重視します。各機器にはUDI(Unique Device Identification、個体識別) を付し、EUDAMED(欧州医療機器データベース) に登録します。登録すると、事業者にはSRN(Single Registration Number、単一登録番号) が付与されます。

ドイツ固有の点として、ドイツの医療機器規制の解説によれば、管轄当局はBfArM(連邦医薬品・医療機器研究所) で、ドイツはMDRを国内法のMPDG(医療機器法施行法) とMPDV(施行令)で補完・執行しています。EU共通のCE・EUDAMED登録に加え、ドイツ市場ではBfArMへの届出など国内の手続きが重なる点に注意してください。EU全体の規制と、ドイツの国内実装の二層を押さえることが必要です(業界別の規制確認)。

経過措置の期限:規則2023/607で延長

MDRへの移行には、経過措置があります。旧MDD下で発行された証明書(レガシー機器)の有効期限は、規則(EU)2023/607により延長されました。前掲TÜV SÜDの解説によれば、カスタムメイドのクラスIII埋込型は2026年5月26日、クラスIII及びクラスIIb埋込型は2027年12月31日、その他のクラスIIb・IIa・クラスI(滅菌済み・計測機能付き等)は2028年12月31日までとされています。ただし、これは機器が安全であり、製造者が移行に向けた手続きに着手しているなど、条件を満たす場合に限られます。

含意は、「まだ時間がある」と油断しないことです。延長は無条件ではなく、認証機関の予約枠も逼迫しています。自社製品のクラスと期限を確認し、逆算して認証プロセスに着手することが、市場から締め出されないための備えになります。

よくある落とし穴

CEマーキング一般と同じ感覚で臨む。 MDRは臨床評価・Notified Body・UDI・EUDAMEDなど、桁違いに重い。医療機器専用の枠組みとして準備します。

授権代理人(第11条)を用意しない。 EU域外の製造者は、EU域内の授権代理人がなければ市場に出せません。連帯責任も生じ得ます。

クラス分類を軽視する。 クラスI・IIa・IIb・IIIで手続き・時間・コストが激変します。まず正しく分類します。

PRRCを置かない。 規制適合責任者(第15条)を社内に置く義務があります。役割を明確にします。

ドイツの国内手続きを見落とす。 EU共通のCE・EUDAMEDに加え、BfArMへの届出などMPDG上の手続きが重なります。

経過措置で油断する。 2023/607の延長は条件付きで、認証枠も逼迫。クラスと期限から逆算して着手します。

よくある質問

Q. MDRとは何ですか。 A. EU医療機器規則(規則(EU)2017/745)で、2021年5月26日から適用されています。旧MDD(93/42/EEC)等を置き換え、臨床的根拠・UDI・EUDAMED・認証機関監督を強化した枠組みです。

Q. どの機器に認証機関が必要ですか。 A. クラスIは自己適合宣言で足りますが、クラスIIa・IIb・IIIはNotified Body(認証機関)の適合性評価が必要です。まずクラス分類を見極めます。

Q. 日本のメーカーは何を用意すべきですか。 A. EU域内の授権代理人(第11条)の選任が必須です。加えてEU輸入者、そしてPRRC(規制適合責任者、第15条)が必要です。EUDAMED登録も行います。

Q. ドイツ特有の手続きはありますか。 A. 管轄当局はBfArMで、ドイツはMDRをMPDG(施行法)・MPDVで補完・執行します。EU共通の手続きに加え、BfArMへの届出など国内手続きが重なります。

Q. 経過措置の期限はいつですか。 A. 規則2023/607により、クラスIII・IIb埋込型は2027年12月31日、その他IIb・IIa・クラスI(滅菌・計測等)は2028年12月31日まで等に延長されました。条件付きです。

Q. 体外診断用機器(IVD)も同じですか。 A. IVDには別の規則(IVDR、規則(EU)2017/746)が適用されます。MDRとは別枠として確認してください。

まとめ:今週できる次の一歩

EUの医療機器規制(MDR)は、次の順で押さえると外しません。まず、自社製品のクラス分類(I/IIa/IIb/III)を見極め、必要な認証(Notified Body)の要否を確認する。次に、EU域内の体制——授権代理人(第11条)・輸入者・PRRC(第15条)を用意する。そのうえで、UDIとEUDAMED登録、ドイツならBfArMへの届出(MPDG)を段取りする。最後に、経過措置の期限(2023/607)を自社のクラスで確認し、認証プロセスに逆算で着手する。

MDRは、製品の良さだけでは越えられない規制の壁です。EU域内の代理人体制、正しいクラス分類、そして期限からの逆算——ここを設計しておくことが、EU・ドイツ市場への入口を確実に開きます。

TSM株式会社では、日系メーカーのEU・ドイツ向け医療機器規制対応について、クラス分類の確認、授権代理人・輸入者・PRRC体制の設計、EUDAMED登録やBfArM手続きの段取り、経過措置を踏まえた計画づくりを、日本語で支援しています。製品規制・コンプライアンスの体制づくりは法務・コンプライアンス支援サービスをご覧ください。規制の地図を先に描くほど、参入は速く、確実になります。

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本記事は2026年8月10日時点の法令・公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の規制・法務助言ではありません。医療機器規制の要件・分類・経過措置は改定や個別事情により異なるため、実務にあたっては認証機関やドイツ・EUの医療機器規制の専門家による確認をお取りください。