「CEマークを貼れば売れる」は、半分正解で半分は事故のもと
ドイツ・EU市場への参入を準備する日系企業から、「うちの製品にCEマークは要りますか」という質問をよく受けます。良い問いですが、規制確認の全体を「CEの要否」だけに縮めてしまうと、後で足をすくわれます。
EUの製品規制は層になっています。ほぼすべての製品・事業者に関わる横断的なルール(製品安全、CEマーキング、個人データ、包装リサイクル、製造物責任)があり、そのうえに、化粧品・機械・食品・医療機器・化学品といった業界ごとの固有ルールが乗ります。そして後者は、そもそもその製品を合法的に市場に出せるかどうかを左右します。出荷してから必要な適合手続きや登録に気づけば、コストは跳ね上がり、市場監視当局に製品を回収される事態にもなりかねません。
規制確認は、参入前の関門です。しかも「自社が何業か」ではなく「自社の製品が何か」を起点に、一つずつ確認していく作業です。本記事では、この確認を「二層構造の理解 → 自社製品からの特定手順 → 日本企業がはまりやすい罠」という順で整理します。個々の規制の詳細には専用の記事があるので、ここではそれらを束ねる地図を描きます。
規制は「二層」で考える:横断ルールと業界別ルール
まず、EUの製品規制が二つの層でできていることを押さえます。
横断ルールは、製品の種類を問わず広く関わります。一般製品安全規則(GPSR)は消費者向け製品の安全の土台であり、EU域内に責任を負う事業者を求めます。EUの整合法令の対象となる製品にはCEマーキングによる適合表示が必要です。個人データを扱えばGDPR、物理的な製品を売れば包装リサイクル(EPR)の登録、そして製造物責任(PL)——これらは業界を問わず効いてきます。
業界別ルールは、その製品分野に固有の要件を課します。たとえば化粧品には化粧品規則(EC 1223/2009)があり、CPNPへの届出とEU域内の責任者(Responsible Person)が求められます(化粧品のEU規制)。機械には新しい機械規則(EU 2023/1230)があり、従来の機械指令(2006/42/EC)を2027年1月20日から置き換えます(機械の安全規格)。食品には表示・輸入の要件(食品の表示と輸入要件)、医療機器には医療機器規則(MDR)、化学品にはREACHがあり、それぞれ固有の適合・登録・所管当局を伴います。
失敗の典型は、この二層のどちらか一方しか見ないことです。CEだけ確認して業界別の登録を落とす、あるいは業界別ばかり見て包装登録という横断ルールを忘れる。両方をそろえて初めて、市場に出せる状態になります。
自社製品を起点に「該当規制」を特定する手順
規制確認は、次の順で進めると漏れが減ります。
第一に、自社製品を正確に分類することです。それは何で、何からできていて、どう使われ、誰が使うのか。同じ「装置」でも、機械なのか、電気製品なのか、医療機器なのか、玩具なのかで、適用される規則はまったく変わります。ここが曖昧だと、以降のすべてがずれます。
第二に、該当するEU規則と、ドイツの国内実装を洗い出すことです。ここで有効なのが、欧州委員会の公式ツールAccess2Markets の「Product requirements」です。製品と対象国を入力すると、適用される整合ルール、所管当局、根拠法令が一覧で示されます。製品要件の約85%はEU全域で統一されていますが、残りは国ごとに異なり、各加盟国の製品連絡窓口(product contact point)を通じて確認します。
第三に、適合の経路と登録を特定することです。適合が自己宣言で足りるのか、第三者機関(notified body)の関与が要るのか。CPNP(化粧品)、REACH(化学品)、包装・EPR(国ごと)といった登録が必要か。そして横断・業界別を問わず頻出するのが、EU域内に責任を負う事業者(輸入者や域内代理人)を置く義務です。
第四に、所管当局と市場監視の枠組みを確認します。誰が監督し、違反時に何が起きるのか。第五に、これらを参入前の規制チェックリストに落とし込み、更新し続けることです。規則は動きます。機械規則の2027年適用のように、期限のある移行が進行しています。
「日本の認証は使えるはず」という誤解
日系企業がはまりやすい罠は、いくつか決まっています。
最も多いのが、日本やグローバルの認証がそのまま通用するという思い込みです。日本の認証や試験成績は、EUの適合をそのまま代替しません。EUで売るにはEUの適合(CE等)が必要です。次に、EU域内の責任者を置き忘れること。GPSRや化粧品の責任者要件のように、EU域内に拠点を持つ誰か(輸入者・域内代理人など)が責任を引き受けなければならず、日本本社だけでは要件を満たしません。さらに、包装・EPRの登録を国ごとに見落とすこと。そして、一度確認したら終わりにすること——機械規則は2027年に切り替わり、GPSRは製品安全の義務を組み替え、製造物責任の枠組みも見直しが進んでいます。
規制確認は、参入判断そのものを左右します。どの規制が、どれだけの手続きとコストを要求するかは、市場の魅力度や参入時期の評価に直結するからです。そして「どの規則が該当するか」を特定した後は、それを継続的に守るためのコンプライアンス体制——規程・責任者・監査——を組み、GDPRのような横断領域も体制に織り込みます。特定(何が該当するか)と体制構築(どう守り続けるか)は別の作業であり、順番に進めるものです。
よくある落とし穴
横断ルールだけ、または業界別ルールだけを見る。 両方をそろえないと市場に出せません。CEの確認と業界別登録は別物です。
製品分類を曖昧にする。 何の製品かの特定が甘いと、該当規制を取り違えます。まず製品を正確に定義してください。
EU域内の責任者を置かない。 日本本社だけでは、責任者・輸入者の要件を満たせないことが多い。域内の担い手を決めておく必要があります。
日本・グローバル認証がそのまま通用すると思い込む。 EUで売るにはEUの適合が必要です。
包装・EPRの登録を国ごとに見落とす。 横断ルールでありながら国別登録が必要な領域で、漏れが起きやすい。
一度確認して終わりにする。 規則は改正されます。機械規則の2027年適用のように、期限を追い続ける必要があります。
よくある質問
Q. どこから調べ始めればよいですか。 A. まず自社製品を正確に分類し、そのうえで欧州委員会のAccess2Marketsで製品と対象国を入力して、適用ルール・所管当局・根拠法令を洗い出すのが効率的です。
Q. CEマークがあれば十分ですか。 A. 不十分な場合があります。CEは横断的な適合表示の一つで、業界別ルールや国別要件が上乗せされることがあります。二層で確認してください。
Q. 日本の認証は使えますか。 A. そのままは使えません。EU市場に出すにはEUの適合が必要です。
Q. 「EU域内の責任者」には誰がなりますか。 A. EU域内に拠点を持つ輸入者や域内代理人などです。製品分野の規則ごとに要件が異なるため、参入設計の段階で担い手を決めておきます。
Q. 規制は変わりますか。 A. 変わります。機械規則は2027年に機械指令を置き換え、製品安全や製造物責任も見直しが進んでいます。チェックリストは更新し続けてください。
Q. 規制確認と体制構築は何が違いますか。 A. 前者は「どの規制が該当するか」を特定する作業、後者は「どう守り続けるか」の仕組みづくりです。特定してから体制を組みます。
まとめ:今週できる次の一歩
業界別の規制確認は、次の順で形にできます。
まず、自社製品が何で、何からできていて、どう使われるかを一枚に書き出す。次に、それをAccess2Marketsでドイツを対象国として調べ、出てきた要件を「横断ルール・業界別ルール・国別要件」に仕分ける。そのうえで、各要件について適合の経路、必要な登録、EU域内の責任者、所管当局をメモする。最後に、それを参入前のチェックリストにまとめ、規則改正に合わせて更新する。
「CEは要るか」で止まらず、二層で、製品起点で確認すること。これが、出荷後に回収や手戻りに追われないための、最も安いコストの保険です。
TSM合同会社では、日系企業のドイツ・EU進出について、製品分類からの該当規制の特定、横断・業界別ルールの棚卸し、EU域内責任者の設計、そして体制構築までを日本語で支援しています。法規制対応の全体像は法務・コンプライアンス支援サービスをご覧ください。参入の前に確認しておくほど、選べる打ち手は多く、後戻りのコストは小さくなります。
本記事は2026年7月22日時点の法令・公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の法務助言ではありません。製品ごとの適用規制の確認にあたっては、Access2Markets等の公式情報および対象分野の専門家による確認をお取りください。