ドイツでGmbHを設立するとき、必ず関わるのが 公証人(Notar)による公証手続き です。日本の会社設立と大きく異なるのは、定款の作成に公証が法的に必須 である点です。日本本社の担当者が「書類を郵送すれば設立できる」と考えていると、公証人の面前での手続きや、遠隔参加のための委任状の準備で戸惑うことになります。公証は避けて通れない一方、近年は オンライン(ビデオ)での設立 も可能になり、選択肢が広がっています。
本ガイドでは、日系企業の設立担当者向けに、公証人手続きの役割・流れ・費用、そして遠隔参加やオンライン設立の実務を整理します。設立全体の流れはDACH設立手順、法人形態の選択はGmbHとUGの違いもあわせてご覧ください。
公証人(Notar)の役割
ドイツの公証人は、公的な職務を担う中立の法律専門家 です。当事者の一方の代理人ではなく、双方に対して中立の立場で、手続きの適法性を確認し、内容を説明し、当事者の意思を確かめます。公証された文書は 高い証拠力 を持ち、後の紛争を防ぐ機能があります。設立においては、定款の公証、社員総会決議の認証、そして 商業登記簿(Handelsregister)への申請の電子的な提出 まで、公証人が中心的な役割を果たします。
GmbH設立に必須の公証(§2 GmbHG)
GmbH法第2条により、定款(Gesellschaftsvertrag)は公証(notarielle Beurkundung) を受け、全社員が署名する必要があります。公証を欠いた定款は無効です。公証人は、定款の内容を読み上げ・説明し、社員の意思を確認したうえで公証します。その後、公証人が設立の登記を商業登記簿へ申請します。取締役(Geschäftsführer)の選任や、欠格事由がない旨の保証も、この過程で行われます(GmbH取締役の要件と責任参照)。
定款に盛り込む主な事項
公証を受ける定款には、GmbHの基本情報を定めます。主な必須・重要事項は次の通りです。商号(Firma) と 本店所在地(Sitz)、事業目的(Gegenstand)、資本金(Stammkapital)と各社員の出資額、社員の氏名、そして必要に応じて 取締役の代表権の態様(単独・共同) や 会計年度 などです。
定款は会社の「憲法」にあたり、後から変更するには再び公証と登記が必要になります。そのため、設立時に 将来を見据えた設計 をしておくことが重要です。たとえば、複数社員なら意思決定のルール(決議要件)、持分の譲渡制限、取締役の権限範囲などを、あらかじめ検討します。会計年度を本社に合わせるかどうかも、この段階で決めます(GmbH会計年度設計参照)。簡易書式(Musterprotokoll)では、こうした個別の条項を追加できないため、少しでも複雑な要素があれば個別定款を選びます。定款の設計は、設立後の運営や紛争予防に直結するため、専門家の関与のもとで丁寧に行う価値があります。
遠隔の社員はどうするか:委任状(Vollmacht)
日本本社が社員(出資者)の場合、担当者がドイツの公証人の面前に出向くのは負担です。この場合、代理人による署名 が可能ですが、それには 公証された(または認証された)委任状(Vollmacht) が必要です。委任状は、日本の公証役場やドイツ領事館で認証を受け、必要に応じてアポスティーユ(付箋証明)を付す、といった手続きを経ます。この委任状自体も、ビデオによる公証で作成できる場合があります。遠隔参加の段取りは、スケジュールに影響するため、早めに確認しておくべきです。
オンライン設立(ビデオ公証)
2022年8月以降、GmbHの設立をビデオ会議で公証 できるようになりました(DiRUGによる制度改正)。オンライン公証は、連邦公証人会(Bundesnotarkammer)が運営するビデオ・システム を用いて、公証法(BeurkG)第16a条以下に基づいて行われます。当初は現金出資による設立などに限られていましたが、適用範囲は段階的に広がっています。オンライン手続きを選ぶ場合、通常の公証費用に加えて 25ユーロの定額(+付加価値税) がかかります。渡航せずに手続きを進められるため、日本からの設立では有力な選択肢になり得ます。
簡易手続き:Musterprotokoll(定型書式)
設立を簡素化する 簡易手続き もあります。これは、法律が定める 定型書式(Musterprotokoll) を用いる方法で、最大3名の社員と1名の取締役 までという制限があり、定款の内容を 変更・追加できない 代わりに、公証の手間と費用を抑えられます。標準的な単純な設立には有効ですが、複雑な出資構成や特別な定款条項が必要な場合は、通常の(個別の)定款で設立します。
公証費用(GNotKG)
公証人の費用は、自由に交渉できるものではなく、法律(裁判所・公証人費用法/GNotKG)で定められています。費用は、取引の価値(Geschäftswert、例えば資本金)に応じて算定されるため、どの公証人に依頼しても基本的に同水準 で、事前に見積もりが立てられます。維持コストを含む全体像は法人維持コストを参照してください。
手続きの流れ
- 定款の草案作成:商号・目的・出資・取締役などを決める。
- 公証人の選定と日程調整:対面かオンラインかを決める。
- 委任状の準備(遠隔参加の場合)。
- 公証:定款の読み上げ・説明・署名。
- 資本金の払込み。
- 登記申請:公証人が商業登記簿へ提出。
- 登記完了:GmbHが法的に成立。
登記住所の準備は登記住所・バーチャルオフィス、設立後の実務はGmbH設立後90日チェックリストも参考になります。
日系企業の実務ポイント
- 早めの段取り:委任状の認証・アポスティーユには時間がかかります。
- 通訳・翻訳:ドイツ語の定款の内容理解には、翻訳や通訳の手配が有効です。
- オンラインの活用:渡航が難しい場合、ビデオ公証を検討します。
- 本人確認:公証には身分証明が必要で、事前確認が求められます。
よくある誤解
- 書類の郵送だけで設立できると考える(公証が必須)
- 遠隔でも委任状なしで代理署名できると考える
- 公証費用を交渉できると考える(GNotKGで定額)
- Musterprotokollで複雑な定款も作れると考える(内容変更不可)
- 委任状の認証・アポスティーユの時間を見込まない
よくある質問(FAQ)
Q. 公証なしでGmbHを設立できますか。 A. できません。定款の公証は§2 GmbHGで必須です。
Q. 日本にいながら設立できますか。 A. 委任状による代理、またはオンライン(ビデオ)公証で対応できます。いずれも事前の準備(委任状の認証や本人確認)が必要なため、余裕を持って進めます。
Q. 公証費用は交渉できますか。 A. できません。GNotKGにより取引価値に応じて定額です。
Q. Musterprotokollとは何ですか。 A. 簡易設立用の定型書式です。社員3名・取締役1名までで、内容は変更できません。
Q. オンライン設立の追加費用は。 A. 通常費用に加え、25ユーロの定額(+付加価値税)がかかります。
実務チェックリスト
- 定款の公証(§2 GmbHG)が必須であることを理解したか
- 対面かオンライン(ビデオ)かを決めたか
- 遠隔参加の場合、公証された委任状を準備したか
- 委任状の認証・アポスティーユの時間を見込んだか
- 簡易手続き(Musterprotokoll)で足りるか、個別定款が必要か判断したか
- 公証費用(GNotKG)の見積もりを取ったか
- 本人確認・翻訳・通訳の手配をしたか
まとめ
ドイツGmbHの設立では、定款の公証(§2 GmbHG)が法的に必須 であり、公証人が設立から登記までの中心的な役割を担います。日本からの設立でも、委任状 や オンライン(ビデオ)公証 を使えば、渡航せずに手続きを進められます。費用はGNotKGで定額のため予測可能です。委任状の認証には時間がかかるため、段取りを早めに固めることが、スムーズな設立の鍵になります。
TSM合同会社では、日系企業のドイツ会社設立にあたり、公証人の選定から定款作成、委任状・オンライン設立の段取り、登記までを一貫して支援しています。公証人手続きにお悩みの場合は、お気軽にご相談ください(現地法人設立支援サービスの詳細はこちら)。
本記事は2026年7月4日時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の法務助言に代わるものではありません。具体的な判断は最新の法令と専門家への確認のうえで行ってください。