ドイツ子会社で従業員を解雇するには、解雇制限法(Kündigungsschutzgesetz、KSchG)が求める「社会的正当性」に加えて、書面と署名、予告期間、事業所委員会の聴聞、特別な保護の対象者の確認といった要件を一つずつ満たす必要があります。どれか一つが欠けても解雇が無効になり得るうえ、従業員が3週間以内に提訴すれば労働裁判所で争われます。本記事では、2026年9月時点の条文と、連邦労働社会省(BMAS)など公的機関の情報をもとに、日本本社と現地法人が押さえるべき要件と手順を整理します。
ドイツの解雇ルールの全体像
ドイツの解雇ルールは、二層で考えると整理しやすくなります。第一層は、解雇制限法が適用されるかどうかにかかわらず問題になる形式・手続きの要件で、書面による通知、予告期間、事業所委員会がある場合の聴聞、妊娠中の従業員や重度障害者などへの特別な保護が含まれます。第二層が、一定規模を超える事業所で勤続6か月を超える従業員に及ぶ解雇制限法の保護で、解雇に「社会的正当性」が求められます。
連邦労働社会省(BMAS)も、解雇は書面で行う必要があること、法定または合意した予告期間を守る必要があること、予告なしの即時解雇(fristlose Kündigung)には重大な理由が必要であることを明記しています。労働時間や休暇を含む労働法の基礎は、ドイツ労働法の基礎をご覧ください。
解雇制限法(KSchG)が適用される条件
解雇制限法は、従業員が10人を超える事業所で、勤続が6か月を超える従業員に適用されます。人数を数える際、週の所定労働時間が20時間以下のパートタイム従業員は0.5人、30時間以下は0.75人として数えます(KSchG §23第1項)。小規模な子会社では、パートタイムの比率によって10人を超えるかどうかが変わるため、採用計画の段階で確認しておく必要があります。
勤続6か月以内の従業員には社会的正当性の審査が及びませんが、第一層の要件は変わりません。合意した試用期間中(最長6か月)の予告期間は2週間です(BGB §622第3項)。試用期間の設計はDACH地域の試用期間ガイドで解説しています。
社会的正当性:3つの解雇理由
解雇制限法が適用される場合、解雇は次の3つのいずれかの理由によるものでなければ「社会的に正当化されない」として無効になります(KSchG §1)。各理由の意味は、連邦政治教育センター(bpb)の法律辞典に沿って整理します。
- 人的理由(personenbedingt):本人の事情によって、労働能力の全部または一部が一時的または継続的に失われる場合。
- 行動上の理由(verhaltensbedingt):労働契約上の義務に対する有責な違反がある場合。原則として、事前の警告(Abmahnung)が解雇の有効性の前提になります。
- 経営上の理由(betriebsbedingt):経営上の措置によって仕事や人員の必要がなくなり、その事業所で雇用を続けられない場合。
経営上の理由による解雇では、対象者の選び方も審査されます。勤続年数、年齢、扶養義務、重度障害の4つの観点を考慮しない、または考慮が不十分な場合、解雇は社会的に正当化されません(§1第3項、社会的選択=Sozialauswahl)。業績評価だけで対象者を選ぶ方法は、この要件と両立しない可能性があります。
解雇手続きの必須要件
書面と署名
雇用関係の解雇と合意解約は、書面によらなければ効力を生じず、電子的方式は明文で除外されています(BGB §623)。書面方式では、文書に作成者が自筆で署名する必要があります(BGB §126第1項)。そのため、メールや電子署名付きのPDFによる解雇通知は、この要件を満たしません。
署名者も確認が必要です。GmbHを代表するのは取締役(Geschäftsführer)で、複数の取締役がいる場合は、定款に別段の定めがない限り共同でしか代表できません(GmbHG §35)。代理人が署名する場合に委任状(Vollmachtsurkunde)を添えないと、従業員はそれを理由に遅滞なく解雇を拒絶でき、拒絶されると解雇は無効になります。ただし、会社が事前に代理権を従業員に知らせていた場合は拒絶できません(BGB §174)。取締役の権限はGeschäftsführerの要件と責任で解説しています。
法定予告期間(BGB §622)
基本の予告期間は4週間で、毎月15日または月末を終了日とします。会社からの解雇では、勤続年数に応じて次のように延長され、いずれも月末が終了日になります。同じ一覧はIHKレーゲンスブルクも示しています。
| 勤続期間 | 会社からの予告期間 |
|---|---|
| 2年以上 | 1か月 |
| 5年以上 | 2か月 |
| 8年以上 | 3か月 |
| 10年以上 | 4か月 |
| 12年以上 | 5か月 |
| 15年以上 | 6か月 |
| 20年以上 | 7か月 |
なお、25歳未満の勤続期間を算入しない旧規定は、2019年1月1日に削除されています(IHKレーゲンスブルク)。
事業所委員会の聴聞(BetrVG §102)
事業所委員会(Betriebsrat)がある事業所では、あらゆる解雇の前に委員会の聴聞が必要で、聴聞なしの解雇は無効です。会社は解雇の理由を伝え、委員会は通常解雇なら1週間以内、即時解雇なら3日以内に書面で懸念を伝えられます。通常解雇について期限内に意見がなければ、同意したものとみなされます(§102の条文)。制度の全体像はドイツのBetriebsrat(事業所委員会)ガイドをご覧ください。
大量解雇の届出(KSchG §17)
30暦日以内に一定数以上の解雇を予定する場合は、実行前に雇用エージェンシー(Agentur für Arbeit)への届出が必要で、委員会がある場合はその関与も求められます。連邦雇用エージェンシーによれば、届出が必要になるのは、通常21〜59人の事業所で6人以上、60〜499人で10%以上または25人超、500人以上で30人以上の解雇を予定する場合です。
特別な解雇保護の対象者
解雇制限法の適用とは別に、次の従業員には特別な保護があります。本社で解雇を決裁する前に、対象者に当たらないかを確認します。
- 妊娠中・出産後の従業員:妊娠の開始から産後の保護期間の終了まで、少なくとも出産後4か月間は、原則として解雇できません。解雇の時点で会社が妊娠を知らなくても、解雇通知の到達から2週間以内に知らされれば保護が及びます。例外は監督官庁が同意した場合に限られ、同意のない解雇は無効です(連邦政府の家族ポータル(Familienportal des Bundes)、MuSchG §17)。
- 育児休業(Elternzeit)の取得者:休業を申請した時点から保護が始まり(子が3歳になるまでの休業は開始の最大8週間前、3〜8歳の間の休業は最大14週間前から)、休業中も、労働保護を所管する州の監督官庁が特別な場合に認めたときを除いて解雇できません(家族ポータル、BEEG §18)。
- 重度障害者と、それと同等に認定された人:会社からの解雇には統合局(Integrationsamt/Inklusionsamt)の事前の同意が必要で、同意のない解雇は無効です。通常解雇にも即時解雇にも適用されますが、雇用開始から6か月以内の解雇には同意は不要です(統合局の連邦連合会(BIH)、SGB IX §168・§173)。
- 事業所委員会の委員:任期中は、即時解雇に足る重大な理由と委員会の同意(またはそれに代わる裁判所の決定)がなければ解雇できず、任期終了後1年間も、重大な理由による即時解雇を除いて解雇できません(KSchG §15)。
3週間の提訴期限と退職金(Abfindung)
従業員が解雇を争うには、書面の解雇通知を受け取ってから3週間以内に労働裁判所へ提訴する必要があり、期限を過ぎると解雇は当初から有効だったものとみなされます(KSchG §4・§7、BMAS)。官庁の同意が必要な解雇では、この期限は官庁の決定が従業員に通知された時点から進みます(§4)。訴訟の進み方はドイツ労働裁判所ガイドで解説しています。
退職金について、連邦雇用エージェンシーは、解雇に伴う退職金を当然に請求できる権利はなく、任意の給付だと説明しています。解雇制限法には、退職金に関わる次の2つの仕組みがあります。
- §1a KSchGの選択肢:経営上の理由による解雇で、会社が解雇通知の中で「経営上の理由による解雇であること」と「提訴期限を過ぎれば退職金を請求できること」を示した場合、従業員が3週間以内に提訴しなければ、予告期間の満了時に、勤続1年につき月収0.5か月分の退職金を請求できます。6か月を超える端数は1年に切り上げます。
- 裁判所による雇用関係の解消(§9・§10):解雇が無効でも雇用の継続を期待できない事情がある場合、裁判所は申立てにより雇用関係を解消し、相当な補償金の支払いを命じます。上限は原則として月収12か月分で、50歳以上かつ勤続15年以上なら15か月分、55歳以上かつ勤続20年以上なら18か月分です。
このほか、事業所変更に伴う社会計画(BetrVG §112)で補償が定められることもあります。訴訟の途中で当事者が合意し、退職金の支払いを条件に終結させることもできますが、金額は個別の事情で大きく変わるため、本記事では一律の目安を示しません。
合意解約(Aufhebungsvertrag)という選択肢
解雇の代わりに、会社と従業員の合意で雇用関係を終わらせる合意解約(Aufhebungsvertrag)もあります。合意解約も書面によらなければ効力がなく、電子的方式は除外されます(BGB §623)。BIHによれば、重度障害者との合意解約には統合局の同意は不要です。
一方、連邦雇用エージェンシーは、合意解約の締結が従業員の失業給付に影響し、とくに給付の停止期間(Sperrzeit)につながる可能性があると案内しています。そのため交渉では、従業員側の不利益をどう補うかが条件面の論点になり得ます。本社としては、「解雇が認められる見込み」と「合意解約の条件」を並べて比較し、どちらで進めるかを現地の専門家と決めるのが現実的です。
よくある落とし穴
- 本社の稟議を待つ間に即時解雇の期限が過ぎる:重大な理由による即時解雇は、解雇の権限を持つ人が事実を知ってから2週間以内にしか行えません(BGB §626第2項)。事業所委員会がある場合は、3日以内の聴聞もこの2週間に収める必要があります。本社の決裁に数週間かかる体制ではこの期限を守れないため、現地取締役の決裁権限と本社への報告ルートを事前に決めておきます。
- 権限のない人が署名する:日本本社の役員や現地の部長が委任状なしに署名すると、従業員に拒絶される余地が生まれます。取締役が2人いる場合は、定款上の代表方法も確認します。
- 特別保護の該当性を確認しないまま進める:育児休業の申請、重度障害の認定、委員の任期などの記録を確認します。官庁の同意が必要な対象者を同意なく解雇すると無効です。
- 経営上の理由で「成績の低い人から」選ぶ:社会的選択の4つの観点を考慮していなければ、社会的に正当化されません。
よくある質問
Q. 従業員8人の子会社なら、解雇は自由にできますか? A. 解雇制限法の社会的正当性の審査は及びませんが(パートタイムの換算に注意)、書面、予告期間、特別保護の要件は適用されます。事業所委員会は従業員が少ない事業所でも選挙され得る(BetrVG §1)ため、委員会があれば聴聞も必要です。
Q. 試用期間中なら理由なく解雇できますか? A. 勤続6か月以内は社会的正当性の審査が及ばず、合意した試用期間中の予告期間は2週間です。ただし、書面の要件と事業所委員会の聴聞は必要で、妊娠中の従業員の保護は、無期雇用の試用期間中にも適用されます(家族ポータル)。
Q. 退職金は必ず払う必要がありますか? A. 当然に請求できる法律上の権利はありません。§1a KSchGの選択肢、裁判所による雇用関係の解消、社会計画、当事者間の合意によって支払いが生じます。
Q. 事業所委員会が反対したら解雇できませんか? A. §102が求めるのは聴聞で、異議が出ても解雇の意思表示はできます。ただし、通常解雇に委員会が所定の理由で異議を述べ、従業員が提訴した場合は、判決確定まで雇用の継続を求められることがあります(§102第5項)。
Q. 重度障害者との合意解約にも統合局の同意が必要ですか? A. 不要です(BIH)。ただし、書面の要件は解雇と同じく適用されます。
まとめ——今週できる次の一歩
ドイツでの解雇は、「適用範囲の確認 → 理由の特定 → 特別保護の確認 → 事業所委員会の聴聞 → 書面の作成と署名 → 通知 → 3週間の提訴期限の管理」という順序で手順化できます。本社の役割は、即時解雇の2週間、聴聞の1週間と3日、提訴の3週間という期限を、本社の意思決定の速度と矛盾させないことです。
今週できる次の一歩として、①ドイツ子会社の従業員数をパートタイム換算で数え直す、②解雇と合意解約について、現地取締役に委ねる決裁権限と本社への報告ルールを文書化する、③取締役の代表方法(単独か共同か)を定款で確認する、の3点をおすすめします。
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本記事は2026年9月22日時点の公開情報に基づいています。個別の事案への適用は、ドイツの労働法に詳しい弁護士にご確認ください。