EUの化粧品規制は、成分ごとの「リスト」と、EU域内の責任者(Responsible Person)が上市前に安全性評価と届出を済ませる仕組みで成り立っています。日本で適法に販売している処方でもEUの禁止物質や濃度上限に触れれば販売できず、2026年は禁止物質の追加(5月)、香料アレルゲン表示の移行期限(7月)と、成分面の期限が続きました。本記事は成分規制を軸に、日本ブランドが確認すべき条文と実務を整理します(規則全体の改正動向はEU化粧品規則の実務2026にまとめています)。
成分規制が最初の関門になる理由
EUで化粧品を販売する際の基本法は規則(EC)No 1223/2009で、2013年7月11日から全面適用されています(EUR-Lexの法令情報)。欧州委員会は同規則を完成品の化粧品に関する主要な規制枠組みと位置づけています(欧州委員会:化粧品の法令)。
日本の化粧品基準(平成12年厚生省告示第331号、2001年4月1日適用)も、防腐剤・紫外線吸収剤・タール色素をポジティブリスト方式で規制しています(東京都健康安全研究センター)。EUも着色料・防腐剤・UVフィルターを許可リストで管理していますが、両者は別々に作られたリストです。日本で配合できることはEU適合の根拠にならないため、成分1つずつをEUの附属書の本文で確認します。化粧品以外も含めた枠組みはEU製品規制の全体像で解説しています。
附属書IIからVIの読み方
規則第14条は、化粧品に含めてはならないものを附属書ごとに定めています。
| 附属書 | 内容 | 実務で確認する点 |
|---|---|---|
| II | 禁止物質 | 該当すれば処方変更が必要 |
| III | 制限物質 | 濃度上限・製品の種類・警告文 |
| IV | 着色料(許可リスト) | 掲載の有無・使用条件 |
| V | 防腐剤(許可リスト) | 最大濃度・使用条件 |
| VI | UVフィルター(許可リスト) | 最大濃度・使用条件 |
附属書IVからVIは許可リストで、着色料(染毛製品は別扱い)・防腐剤・UVフィルターとして使う物質は、掲載され、かつ条件を守っている場合にしか使えません。附属書IIIの条件にはラベルに印字する注意書きも含まれるため、配合量が上限内でも表示が欠ければ違反です。
調査には欧州委員会の成分データベースCosIngが便利ですが、委員会自身が「情報提供目的で法的価値はない」と明記し、INCI名があることは使用が認められたことを意味しないとしています。最終判断は附属書の本文で行ってください。
香料アレルゲンの表示拡大
全成分表示で香料は「parfum」または「aroma」とまとめて記載できますが、附属書IIIで個別表示が求められる香料アレルゲンは別に書く必要があります。委員会規則(EU)2023/1545は、従来の24物質に加え、SCCS(消費者安全科学委員会)が特定した56の香料アレルゲンについて、洗い流さない製品で0.001%、洗い流す製品で0.01%を超える場合の個別表示を求める改正です。不適合品を上市できたのは2026年7月31日までで、それ以前に上市した在庫は2028年7月31日まで提供できます。香料メーカーから個々のアレルゲンの濃度情報を得られなければ表示を確定できないため、調達契約で開示を条件にしておくことが要になります。
CMR物質と「オムニバス」改正
発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)物質は第15条が扱います。CLP規則でカテゴリー1A・1Bに分類された物質は原則禁止で、食品安全要件への適合、代替物質がないこと、曝露が把握された特定用途であること、SCCSによる安全評価の4条件をすべて満たす場合だけ例外が認められます。カテゴリー2は、SCCSが評価し安全と認めた場合に使えます。委員会はCLP規則附属書VI第3部への収載から15か月以内に措置を採ることになっており、この附属書改正をまとめる規則が通称「オムニバス」です。
直近の委員会規則(EU)2026/78(2026年1月12日)は、委任規則(EU)2024/2564でCMRに分類された物質など15項目を附属書IIに追加し、2026年5月1日から適用されました。アイルランドの規制当局HPRAはこれを「Omnibus Act VIII」と呼び、該当製品は5月1日より前に市場から撤去する必要があったとしています(HPRA)。経過期間がない前提で、CLP規則の分類変更の段階から原料を監視しておく必要があります。
CMR以外の改正も続きます。委員会規則(EU)2026/909(2026年4月27日)は、トリフェニルホスフェートを附属書IIに加え、サリチル酸ベンジル、シトラール、アルミニウム含有成分、水溶性亜鉛塩、UVフィルターのDHHBの条件を見直しました(染毛剤・防腐剤に関する改正は即時適用)。これらの成分は、2027年1月1日から不適合品の上市が、2028年7月1日(シトラールの一部の形態は8月1日)から市場での提供ができなくなります。第2条の定義では「上市」はEU市場への最初の供給、「市場での提供」は商業上のあらゆる供給を指すため、後の日付は流通在庫を売り切る期限と読めます。
紛らわしいのが、化学品分野の簡素化パッケージ「Omnibus VI」です。EU理事会によれば、2026年6月17日に理事会と欧州議会が暫定合意し、化粧品のCMR物質にリスクに応じた長さの移行期限を設けることや、ナノマテリアルの上市前届出の維持が盛り込まれました(EU理事会)。発表時点では正式採択前で、番号は小さくても附属書IIに物質を追加するOmnibus VIIIとは別の手続きです。社内資料では規則番号で区別しておくと混乱を防げます。
ナノマテリアル:6か月前の届出と「(nano)」表示
ナノマテリアルを含む製品は、通常のCPNP届出とは別に、上市の6か月前までに届け出なければなりません(第16条)。ただし着色料・UVフィルター・防腐剤として附属書で規制されるものは、明示の定めがない限り対象外です。一方、全成分表示でナノ形態の成分名の後に「(nano)」と書く義務は用途を問いません(第19条1項(g))。欧州委員会は酸化チタンや酸化亜鉛などをナノ形態のUVフィルターとして認めていると説明しています(欧州委員会:ナノマテリアル)。ナノ粒子の紫外線散乱剤を使う日焼け止めは、附属書VIの条件と表示の両方を確認してください。
日本ブランドが担う実務:RP・安全性評価・CPNP・表示
責任者(RP)を決める(第4条)
EU域内で責任者が指定された化粧品しか上市できません。輸入品では輸入者が責任者となり、書面の委任で域内の別の者を指定できます(受任者も書面で受諾)。EU域外の製造者も書面の委任で域内の者を指定でき、自社の名称・商標で販売する販売業者や、適合性に影響する形で製品を変更した販売業者は自ら責任者になります。日本本社は域内に拠点がなければ責任者になれないため、輸入者に任せるか専門の受託者と契約するかを最初に決めます。考え方は商社経由と直接取引の違いも参考になります。
安全性評価と製品情報ファイル(第10・11条)
安全性評価は、薬学・毒性学・医学またはこれに類する分野の大学課程(または加盟国が同等と認めた課程)を修了した者が行います(第10条2項)。日本の専門家に依頼する場合は、この要件を満たすかを責任者と確認します。製品情報ファイル(PIF)は最後のバッチの上市から10年間、ラベル記載の責任者住所で、当局が理解しやすい言語で閲覧できるようにしておきます(第11条)。日本側が処方や試験データを開示しなければPIFは完成しないため、開示範囲と秘密保持を契約で決めておきます。
CPNP届出(第13条)
責任者は上市前に、製品カテゴリーと名称、責任者の住所、輸入品の原産国、ナノマテリアルやCMR物質(1A・1B)の有無、フレーム処方、ラベルの写真などをCPNPで届け出ます。欧州委員会はCPNPを無料の届出システムとしています(欧州委員会:CPNP)。内容が変われば遅滞なく更新し(第13条7項)、販売業者が他の加盟国向けにラベルを翻訳する場合は販売業者にも届出義務があります(同3項)。
表示とドイツ語(第19条)
容器・包装には、責任者の名称・住所、輸入品の原産国、内容量、使用期限(最低持続期間が30か月を超える製品は開封後の使用期間を示すPAO記号)、使用上の注意、バッチ番号、機能、全成分を表示します。全成分は重量の多い順(1%未満は順不同)で、第33条の用語集の共通成分名称を使います。内容量・使用期限・注意書き・機能の表示言語は販売国の法律で決まり(第19条5項)、ドイツでは化粧品規則(KosmetikV)が特に使用方法と警告文のドイツ語表示を求めています(INCI表示は対象外、BVL:化粧品の法的枠組み)。包装された商品をドイツで流通させる事業者には包装登録簿LUCIDへの登録も求められます(中央包装登録機関、ドイツ包装法(VerpackG)とLUCID登録)。
効能表示と動物実験
第20条は、製品が持たない特性や機能を示唆する表示を禁じています。欧州委員会の技術文書(法的拘束力はないと明記)は、禁止物質について「〜フリー」とうたうことや、パラベン類全体をおとしめる「パラベンフリー」表示は認められるべきでないとしています(欧州委員会:効能表示の技術文書)。動物実験は、完成品が2004年9月11日、成分が2009年3月11日から禁止され、試験した製品・成分の販売禁止も2013年3月11日までに全面適用されています(欧州委員会:動物実験の禁止)。
ドイツでの執行:市場監視は州の当局
ドイツでは市場監視を州の当局が担い、連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)は監視プログラムの調整や欧州の警報システム(Safety Gate)の窓口を担当しています(BVL:役割分担)。ドイツの化粧品規則は、違反時の刑罰・過料といった国内の制裁と、ドイツ所在の化粧品事業者が製造場所やEUへの輸入場所を監視当局に届け出る義務も定めています。責任者は重大な健康被害(SUE)を知れば遅滞なく当局へ通知しなければなりません(第23条)。ドイツの輸入者を責任者にする場合は、こうした届出と当局対応の担当を契約で書き分けておきましょう。
よくある落とし穴
1つ目は、日本の処方と表示を「翻訳」で済ませることです。日本の成分表示名称や「無添加」「〜フリー」の訴求、化粧品基準を根拠にした配合判断は、EUではそのまま通用しません。2つ目は、香料の中身を把握していないことです。濃度情報が出てこなければ、拡大後のアレルゲン表示を確定できず出荷が止まります。3つ目は、二段階の期限の読み違いです。上市の期限までに新処方へ切り替えても、欧州側の在庫が次の期限までに売り切れなければ回収が必要になります。4つ目は日本の医薬部外品です。EUでは化粧品の定義(第2条)に当てはまるか、医薬品など別の区分かを個別に判断し、欧州委員会も分類はケースバイケースとしています(欧州委員会:境界製品)。有効成分や効能表現によっては化粧品として販売できないため、専門家の確認が必要な分岐点です。
よくある質問
Q. 日本本社が責任者(RP)になれますか? A. EU域内に拠点がなければなれません。輸入品では輸入者が責任者となり、輸入者または製造者が書面の委任で域内の受託者を指定する方法もあります。
Q. 2026年7月31日より前に上市した在庫は、旧表示のまま販売できますか? A. 規則(EU)2023/1545の経過措置により、2028年7月31日まで市場で提供できます。販売期間が長い製品は切替時期を逆算してください。
Q. ドイツだけで販売するなら英語表示でもよいですか? A. BVLによれば、ドイツの化粧品規則は特に使用方法と警告文のドイツ語表示を求めています。INCIの成分表示は翻訳不要です。
Q. ナノ粒子の酸化チタンを使った日焼け止めも6か月前の届出が必要ですか? A. 附属書VIでUVフィルターとして規制されるものは、明示の定めがない限り第16条の届出の対象外です。ただし「(nano)」表示と附属書VIの条件の確認は必要です。
まとめ——今週できる次の一歩
EUの成分規制は、附属書IIからVIの照合、オムニバス改正の監視、香料アレルゲンとナノマテリアルの表示、責任者を中心とするPIF・CPNPの体制で成り立っています。今週できる一歩は、EU向け候補製品の「成分マスター」づくりです。成分ごとに共通成分名称、CAS番号、配合目的、配合量、ナノ形態の有無、香料アレルゲンの内訳を一覧にし、附属書と2026/78・2026/909の改正内容に照らして要対応の成分に印を付けます。並行して責任者の候補を決め、香料メーカーへ情報開示を依頼すれば、処方変更の要否と上市時期の見通しが立ちます。
TSM株式会社では、化粧品のEU・ドイツ展開に向けて、適用される規制の洗い出しと、責任者・規制専門家・安全性評価者との連携体制づくりをお手伝いしています。法規制の初期整理・専門家連携としてご相談いただけます。
本記事は2026年9月22日時点の公開情報に基づいています。個別製品の適合判断は、責任者(RP)・安全性評価者などの専門家にご確認ください。