恒久的施設(PE)は「ドイツで課税されるか」の境界線

日本企業がドイツに子会社(GmbH)を置かずに、駐在員事務所、出張ベースの営業、現地倉庫からの配送といった形で活動する場合、最初に確認すべき論点が 恒久的施設(Permanent Establishment、略称PE/ドイツ語でBetriebsstätte) です。

日独租税協定(2015年12月署名、2016年10月発効)の第7条1は、企業の事業利得について次の構造を定めています。一方の国の企業の利得は、その企業が他方の国にある恒久的施設を通じて事業を行わない限り、居住地国でのみ課税される。恒久的施設を通じて事業を行う場合は、その恒久的施設に帰属する利得について、他方の国も課税できる——という仕組みです(BMF:日独租税協定の統合テキスト(ドイツ語))。

つまりPEの有無は、日本本社の利益の一部にドイツが課税できるかどうかの境界線です。協定の対象税目には、ドイツ側では法人税(Körperschaftsteuer)、営業税(Gewerbesteuer)、連帯付加税(Solidaritätszuschlag)が含まれています。

進出形態ごとの違いはドイツ進出の形態比較で整理しています。本記事では、子会社を持たない段階、あるいは子会社とは別に日本本社自身がドイツで活動する場面を対象に、PEの判定基準を一次資料に沿って確認します。

協定上の定義:「事業を行う一定の場所」

協定第5条1は、恒久的施設を 「事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているもの」 と定義しています(BMF掲載の協定日本語版)。第5条2は、その例として次のものを挙げています。

  • 事業の管理の場所
  • 支店
  • 事務所
  • 工場
  • 作業場
  • 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所

建設工事は別枠です。第5条3により、建築工事現場や建設・据付けの工事は、12か月を超える期間存続する場合に恒久的施設を構成します。

一方、第5条4は「恒久的施設に当たらない」活動を列挙しています。この除外規定が、2026年から変わりました。

2026年からの変更:倉庫・在庫の除外に「準備的・補助的」の条件

元の協定:保管・引渡しは「のみ」なら除外

2015年の協定本文の第5条4では、次の活動は、それ「のみ」を行う限り、恒久的施設に当たらないとされていました。

  • 企業に属する物品・商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること
  • 物品・商品の在庫を、保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること
  • 在庫を、他の企業による加工のためにのみ保有すること
  • 物品・商品の購入や情報収集のみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること

「準備的又は補助的な性格」であることが明文の条件とされていたのは、これら以外の活動を行う場所と、複数の活動を組み合わせる場合でした。

BEPS防止措置実施条約(MLI)による置き換え

財務省によれば、日独租税協定に適用されるBEPS防止措置実施条約(MLI)の規定には、第13条2(事業を行う一定の場所を通じて行われる場合においても恒久的施設を構成しないものとされる活動に関する規定) が含まれます(財務省:我が国とドイツとの間の租税条約に対する本条約の適用関係の概要)。BMFの統合テキストでも、協定第5条4には「MLI第13条2により置き換え」と表示されています。

置き換え後の規定では、保管・展示・引渡しや情報収集を含むすべての除外活動について、その活動(組み合わせの場合は全体の活動)が準備的又は補助的な性格であることが条件になりました。「引渡しのためだけの倉庫だから恒久的施設ではない」とは、形式だけでは言えなくなったということです。

いつから適用されるか

財務省の公表資料によれば、日独租税協定へのMLIの適用開始は次のとおりです。

  • 源泉徴収される租税:2026年1月1日以後に生ずる課税事象
  • その他の全ての租税:2026年1月1日以後に開始する課税期間

事業利得への法人税・営業税は「その他の租税」の区分です。ドイツ国内に倉庫や在庫を置いて顧客に配送している場合は、2026年1月1日以後に開始する課税期間について、除外の前提が変わっていないかを確認しておく必要があります。

「準備的又は補助的」とは何かについて、協定本文は定義を置いていません。その倉庫・在庫が事業全体の中で果たしている役割に即して判断することになるため、物流拠点の機能が販売の中核に近い場合は、税務専門家と事実関係を整理してください。

なお、代理人に関する第5条5・6には、BMFの統合テキスト上、MLIによる置き換えの表示はなく、元の協定の文言のままです。

代理人PE:契約締結の権限を「反復して行使」しているか

固定的な場所がなくても、人を通じてPEが生じることがあります。協定第5条5は、企業に代わって行動する者(独立の代理人を除く)が、一方の国で 企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合、企業はその者が行う全ての活動についてその国に恒久的施設を有するものとされる、と定めています。ただし、その者の活動が第5条4の除外活動のみである場合は除かれます。

一方、第5条6により、通常の方法でその業務を行う仲立人、問屋その他の独立の地位を有する代理人を通じて事業を行うというだけでは、恒久的施設があるとはされません。

実務に落とすと、確認すべき点は次の3つです。

  • ドイツにいる人(本社の社員や、本社のために動く人)が、本社の名で契約に署名しているか
  • その署名が単発ではなく、反復しているか
  • 代理店・販売パートナーが、独立の地位を持ち、自らの通常の方法で業務を行っているか

また第5条7は、ある法人が他方の国の法人を支配している、あるいは支配されているという事実のみによっては、いずれの法人も他方の恒久的施設とはされない、と定めています。これは「支配関係だけでは」という意味です。GmbHの社員が日本本社の名で契約を締結する運用をしている場合は、第5条5の観点から別途確認が必要です。

ドイツ国内法の定義は協定より広い

ここで注意したいのが、ドイツ国内法(租税通則法、AO)の定義です。

§12 AOは、Betriebstätte(法文上の綴り)を「企業の活動に供されるあらゆる固定的な事業施設又は設備」と定義し、例示として事業の管理の場所、支店、事務所、工場・作業場に加え、倉庫(Warenlager) や 購買所・販売所 を挙げています。建設・据付工事は 6か月を超える場合に含まれ、協定の12か月より短い基準です。

§13 AOの常任代理人(ständiger Vertreter)も、協定の代理人PEより広く、継続的に契約を締結する人だけでなく、契約を仲介する人、注文を取る人、在庫を保有して引渡しを行う人も含みます。

では、国内法と協定の関係はどうなるのか。BMFのAO適用通達(2024年2月5日付の改正、AEAO zu §12 Nr. 10)は、所得税法や営業税法が独自の定義を置かずに「Betriebstätte」という語を使う場合、その意味は原則として租税条約ではなく国内法(§12 AO)で決まり、租税条約は国内法上の納税義務をどの範囲で免除するかを定めるにすぎない、としています。

つまり、日本企業の事業利得にドイツが課税できるかどうかは協定の定義で絞られる一方、国内法上のBetriebstätteや常任代理人に当たるかどうかは、それとは別に検討対象として残ります。倉庫や販売代理の形を設計するときは、両方の定義を並べて確認するのが安全です。

ホームオフィスはPEになるか

ドイツ在住の社員の自宅勤務については、BMFの同じ適用通達(AEAO zu §12 Nr. 4)が次の立場を示しています。

  • 従業員の自宅のホームオフィスでの勤務は、原則として雇用主のBetriebstätteを構成しない
  • 租税条約の観点でも、ドイツ側の見方として、原則として恒久的施設にならない
  • 雇用主がホームオフィスの費用や設備を負担する場合、従業員に他の勤務場所が用意されていない場合も同様
  • 雇用主が従業員と自宅の一部について賃貸借契約を結ぶ場合も同様。ただし、他の従業員を送り込む権利を持つなど、雇用主が実際に部屋を別途使用できる場合は除く

理由として通達は、雇用主は通常、従業員の自宅に対して十分な 処分権限(Verfügungsmacht) を持たないことを挙げています。一方で、従業員が経営管理の機能(Leitungsfunktionen)を担う場合は別の判断になり得るとも明記しています。

実務上は、ドイツ在住の社員が「現地責任者」として意思決定を担っているかが分かれ目です。自宅勤務であっても、その社員が本社の名で契約を反復して締結していれば、前述の代理人PEの論点も生じます。在宅勤務の労務面はドイツのリモートワーク:在宅勤務の労務ルールをご覧ください。

場面別:日系企業が確認しておきたい分岐点

駐在員事務所

市場調査・情報収集・本社との連絡に限定した事務所は、第5条4の除外の範囲に収まるように設計するのが前提です。MLIの適用後は、情報収集のための場所も「準備的又は補助的」であることが条件になりました。駐在員が顧客と価格交渉をまとめ、本社の名で契約に署名するようになると、除外の前提が崩れ、第5条5の代理人PEにも当たり得ます。駐在員本人の税務・社会保険の準備はドイツ駐在・出向の準備チェックリストで扱っています。

顧客先への常駐

協定第5条には、役務提供の期間だけで恒久的施設とみなす規定(いわゆるサービスPE)は置かれていません。ただし、BMFの通達(AEAO zu §12 Nr. 2)は、第三者の事業所の中にもBetriebstätteが生じ得るとし、その要件として、事業者が施設を自社の必要に応じて使用する法的権限を持ち、自社の従業員などがそこで働いていることを挙げています。長期の据付・保守で、顧客の工場内に自社専用の場所を確保している場合は、この観点で確認が必要です。

倉庫・委託在庫

ドイツ国内の倉庫から顧客に配送するモデルは、MLIによる変更の影響を最も直接受ける場面です。国内法上は倉庫自体がBetriebstätteの例示に入っており、在庫を保有して引渡しを行う人は常任代理人に含まれます。物流を外部の倉庫業者に委託する場合も、契約上の使用権限と在庫管理の実態を整理しておくことが大切です。

建設・据付工事

協定では12か月、国内法では6か月が基準です。プラントや設備の据付で長期の現場作業が予定される場合は、工期の見通しを契約段階で確認しておきます。

PEと判断された場合に起きること

恒久的施設があると判断されると、協定第7条により、その恒久的施設に帰属する利得についてドイツが課税できます。帰属させる利得は、第7条2により、恒久的施設が 独立した企業であったとしたら得たであろう利得として、恒久的施設と企業の他の部分が果たす機能、使用する資産、引き受けるリスクを考慮して算定されます。考え方は移転価格と共通しており、ドイツ子会社と本社間の移転価格5ステップや本社費配賦とマネジメントフィーで扱った論点がそのまま関わってきます。

日本側では、協定第22条1により、ドイツで課された税額を日本の税額から控除する仕組み(外国税額控除)で二重課税が調整されます。控除額は、その所得に対応する日本の税額が上限で、日本の外国税額控除の規定に従います。

さらに、ドイツでの税務登録、申告、記帳への対応が必要になります。恒久的施設の存在が後から判明した場合は、過去の課税期間についても申告の要否を確認することになります。

よくある落とし穴

「子会社がないからドイツの税金は関係ない」と考える。 基準は子会社の有無ではなく、本社自身の活動がPEに当たるかどうかです。

倉庫の除外を2015年の条文のまま理解している。 2026年1月1日以後に開始する課税期間からは、保管・引渡しのための施設にも「準備的又は補助的」の条件がかかります。

協定の定義だけで判断する。 国内法の定義は協定より広く、BMFの通達上、国内法上の概念は協定とは別に意味を持ちます。

現地社員の署名権限を管理していない。 代理人PEは「権限を持ち、反復して行使しているか」で決まります。署名権限の範囲を社内規程で明確にしておくことが出発点です。

よくある質問

Q. 駐在員事務所はPEになりますか。

A. 活動が市場調査・情報収集などで、全体として準備的又は補助的な性格にとどまる場合は、協定上の除外に当たります。契約交渉・締結など事業の中核を担い始めると、PEに当たる可能性があります。

Q. ドイツの展示会に出展するだけでPEになりますか。

A. 短期間の出展ブースは、場所の継続性の点でPEに当たらないことがあります。国内法(§12 AO)に関するBMFの通達は、年に一度4週間だけクリスマスマーケットに出す販売スタンドはBetriebstätteを構成しないとした連邦財政裁判所(BFH)の判決を挙げています。ただし、ブースで本社の名の契約を反復して締結する運用であれば、代理人PEの観点も含めて確認してください。

Q. ドイツ在住の社員の自宅はPEになりますか。

A. BMFの通達では、原則としてなりません。ただし、その社員が経営管理の機能を担う場合は別の判断になり得ます。

Q. 独立の代理店を使う場合はどうですか。

A. 通常の方法で業務を行う独立の代理人を通じて事業を行うだけでは、恒久的施設があるとはされません(協定第5条6)。独立の地位を持つか、通常の方法で業務を行っているかは事実関係で判断されるため、契約内容と実態の両方を確認してください。

Q. 2026年の変更を受けて、何をすればよいですか。

A. ドイツ国内に倉庫・在庫・展示用の施設などを持っている場合、その機能が事業全体の中で準備的又は補助的と言えるかを、事実関係に即して整理し直してください。

まとめ——今週できる次の一歩

恒久的施設は、日本本社の利益にドイツが課税できるかどうかの境界線です。協定上は「事業を行う一定の場所」と「契約締結権限を反復して行使する代理人」が基本で、2026年1月1日以後に開始する課税期間からは、倉庫・在庫・情報収集などの除外にも「準備的又は補助的」の条件がかかります。ドイツ国内法の定義は協定より広く、ホームオフィスについてはBMFの通達が原則としてPEにならないとの立場を示しています。

今週できる一歩として、ドイツでの自社の活動を「場所」(事務所・倉庫・在庫・顧客先の常駐場所・社員の自宅)と「人」(契約に署名する人、注文を取る人)の2つの軸で書き出してください。それぞれを協定第5条と国内法の両方の定義に当てはめてみると、PEリスクの所在が見えてきます。

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本記事は2026年9月24日時点の公開情報(日独租税協定、BEPS防止措置実施条約の適用に関する財務省・BMFの公表資料、BMFのAO適用通達)に基づいています。恒久的施設の判定は個別の事実関係によりますので、実際の判断にあたっては税理士等の専門家にご確認ください。