パートナー1社の管理と、プログラムは違う
現地パートナーを1社見つけ、契約し、育てる——それも重要な仕事です(パートナー選定、代理店の探し方)。しかし、多数のパートナーで面を取りにいくなら、話は変わります。10社、50社と束ねて売上を伸ばすには、1社ずつの管理では回りません。必要なのが、パートナープログラム——多くのパートナーを、同じ仕組みで採用し、育て、動機づけ、管理する「制度」です。
本記事は、日系企業がドイツ・EUでパートナープログラムを設計するために、プログラムの骨格、インセンティブの設計、そして見落とされがちなEU競争法の制約(再販価格やオンライン・地域のルール)、チャネル対立の捌き方までを、2026年版で整理します。個別の契約形態は販売店契約vs代理店契約を、全体のチャネル設計はチャネル戦略を参照してください。
プログラムの骨格:階層・登録・イネーブルメント
パートナープログラムの骨格は、三つの部品でできています。
第一に、階層(ティア)。登録パートナー→ゴールド→プラチナ、のように段階を設け、各段階に要件(売上、認定資格、事業計画)と特典(大きなマージン、優先リード、共同資金、手厚いサポート)を対応させる。上を目指すほど投資と見返りが増える設計です。第二に、ディール登録(deal registration)。パートナーが発掘した案件を登録させ、その案件を保護する仕組み。これがないと、同じ客を複数パートナーや直販が奪い合う「チャネル対立」が起きます。第三に、イネーブルメント。オンボーディング、トレーニングと認定、営業・技術資料、そしてパートナーポータル。売れるように育てる仕掛けです。この三点が、多数のパートナーを同じ基準で回す土台になります。
インセンティブの設計:マージン・リベート・MDF
パートナーを動かすのは、インセンティブです。基本は、マージン(仕切り値引き)。加えて、数量に応じたリベート、目標達成のバックリベート、共同マーケティングの原資となるMDF(市場開発資金)やコープ広告、個別の販売報奨(SPIFF)などを組み合わせます(パートナー共同施策)。
設計の要点は、望む行動に報いること。新規開拓を増やしたいならディール登録に厚く、上位育成をしたいなら上位ティアの特典を厚く。ただし——ここが日系企業の落とし穴ですが——インセンティブはEU競争法の制約を受けます。とりわけ「価格」に関わる設計は要注意です。次章で見ます。
競争法の壁:再販価格は「決められない」
パートナープログラムで最も見落とされるのが、EU競争法(垂直的合意の規制)です。中心が、垂直的合意の一括適用免除規則(VBER)。EUの規則2022/720によれば、供給者と買手の市場シェアがそれぞれ30%以下の垂直的合意は、一括して競争法の適用を免除されます(同規則は2022年6月1日に発効し、2034年5月31日まで有効)。
ただし、「ハードコア制限」があると、この免除は失われます。その筆頭が、再販価格維持(RPM)——同規則は、買手が自らの販売価格を決める自由を制限することを、ハードコア制限として挙げています。供給者は上限価格の設定や価格の推奨はできますが、固定価格や最低価格を課すことはできません。つまり、「うちの製品はこの価格で売れ」とパートナーに強制するのは、原則違法です。
これはドイツで、実際に重く罰せられます。連邦カルテル庁(Bundeskartellamt)によれば、食品小売の再販価格維持をめぐり、菓子・コーヒー・ペットフード・ビール・ボディケアなどの分野で、計約2億4,200万ユーロもの制裁金が科されました。インセンティブ設計が実質的に価格の拘束になっていないか——プログラムを作る前に、必ず確認すべき点です。
地域・オンライン・二重流通のルール
価格以外にも、競争法のルールがあります。EUの垂直的制限ガイドラインによれば、次の点が実務に効きます。
オンライン販売——パートナーのオンライン販売を全面的に禁止することは、原則認められません(個別に評価されますが、競争制限的とされやすい)。二重流通(デュアルディストリビューション)——供給者が直販とパートナー経由を併用することは可能ですが、直販部門とパートナーの間の情報交換には制限があります。地域・顧客の割り当て——専売的流通(地域に1社)や選択的流通(品質基準を満たす業者に限定)、一定の地域保護は、市場投資を促す範囲で認められますが、いずれも30%の閾値とハードコア制限に反しないことが前提です。プログラムの「縄張り」や「チャネル」の設計は、これらの枠内で行う必要があります。
チャネル対立をどうさばくか
多数のパートナーを束ねると、必ずチャネル対立が生じます。直販とパートナーが同じ客を追う、複数パートナーが同じ案件で競合する——放置すれば、パートナーの信頼と意欲を損ないます。
捌き方の中心が、ルール・オブ・エンゲージメント(対応の取り決め)です。前述のディール登録で案件の先着・帰属を明確にし、セグメントや地域でのすみ分け(前章の競争法の枠内で)を設計し、直販が担う領域(大口・戦略顧客など)を線引きする。誰がどの案件を取るかを事前に決めておくことが、対立を最小化します。二重流通は認められていますが、パートナーから見て「結局、直販に持っていかれる」と感じさせない透明なルールが、プログラムの信頼を支えます。
プログラムを回す:採用・育成・評価
設計したら、回す仕組みが要ります。まず、採用——狙うパートナー像を定め、プログラムの魅力(マージン・支援・リード)で惹きつける。次に、オンボーディングと育成——認定・トレーニング・ポータルで、売れる状態に引き上げる。そして、評価と見直し——売上や活動をスコアカードで測り、定期レビュー(QBR)で計画を確認し、実績に応じてティアを上げ下げする。
パートナープログラムは、作って終わりではありません。良いパートナーに報い、伸び悩むパートナーを支援し、合わない相手とは整理する——この新陳代謝を、制度として回し続けることが、面での成長を生みます。プログラムは、規律をもって運用するほど、パートナーの力を引き出します。
よくある落とし穴
1社管理の発想でプログラムを作る。 多数を同じ基準で回すのがプログラムです。階層・登録・育成を制度化します。
再販価格を決めようとする。 VBER上、固定・最低価格の強制はハードコア制限です。上限設定や推奨は可、強制は不可です。
オンライン販売を全面禁止する。 原則認められません。チャネル制限は競争法の枠内で設計します。
ディール登録を用意しない。 案件の帰属が曖昧だとチャネル対立が起きます。先着・保護のルールを制度化します。
インセンティブが価格拘束になる。 値引きやリベートが実質的な価格の縛りにならないよう設計します。制裁のリスクは実在します。
運用を放置する。 スコアカードとQBRで評価し、ティアを見直します。作りっぱなしでは機能しません。
よくある質問
Q. パートナープログラムとは何ですか。 A. 多数のパートナーを同じ仕組みで採用・育成・動機づけ・管理する制度です。1社ずつの関係管理とは異なり、階層(ティア)、ディール登録、イネーブルメント、インセンティブを標準化して面で売上を伸ばします。
Q. 階層(ティア)はなぜ設けるのですか。 A. パートナーの投資と見返りを段階的に対応させるためです。上位ほど要件(売上・認定・計画)が高く、特典(マージン・資金・リード・支援)も厚くなります。上を目指す動機づけになります。
Q. パートナーに販売価格を指定できますか。 A. できません。VBER(EU 2022/720)上、買手の価格決定の自由を制限する再販価格維持はハードコア制限です。上限価格の設定や価格の推奨は可能ですが、固定・最低価格の強制は原則違法で、ドイツでは重い制裁があります。
Q. オンライン販売を禁止できますか。 A. 全面禁止は原則認められません。EUのガイドライン上、個別評価となるものの競争制限的とされやすいため、チャネル制限は競争法の枠内で慎重に設計します。
Q. 直販とパートナーを併用できますか。 A. 二重流通として認められます。ただし直販とパートナーの情報交換には制限があり、案件の帰属ルール(ディール登録)や役割分担を明確にして、チャネル対立を防ぐ設計が必要です。
Q. プログラムはどう運用しますか。 A. 採用→オンボーディング・育成→スコアカードでの評価→QBRでの見直し→ティアの上げ下げ、という循環で回します。良い相手に報い、合わない相手を整理する新陳代謝が成長を生みます。
まとめ:今週できる次の一歩
パートナープログラムは、次の順で設計すると外しません。まず、骨格——階層(ティア)、ディール登録、イネーブルメントを制度化する。次に、インセンティブ——マージン・リベート・MDFを、望む行動に報いるよう組む。そのうえで、競争法——再販価格は決められない、オンライン全面禁止は不可という枠を守る。さらに、チャネル対立——ルール・オブ・エンゲージメントで捌く。最後に、運用——採用・育成・評価の循環を回す。
パートナープログラムは、面で売上を伸ばす強力な仕組みですが、EU競争法という枠のなかで設計しなければ、制裁のリスクを負います。骨格・インセンティブ・競争法・運用の四点を押さえれば、ドイツ・EUで多数のパートナーの力を、安全に引き出せます。
TSM株式会社では、日系企業のドイツ・EUのパートナープログラムについて、階層とディール登録の設計、インセンティブ設計、VBER等の競争法への適合、チャネル対立の整理、そして採用・育成・評価の運用まで、日本語で支援しています。市場・競合・チャネルの調査は市場調査サービスをご覧ください。パートナープログラムは、競争法の枠を押さえて設計するほど、安全に大きく育ちます。
本記事は2026年9月9日時点の公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の法務助言ではありません。競争法(VBER・EU 2022/720、垂直的制限ガイドライン等)の要件や制裁の運用は改定・事案により異なるため、実務にあたっては公式情報やドイツ・EUの専門家による確認をお取りください。