はじめに
ドイツで有限責任の法人を設立する場合、最も一般的な選択肢はGmbH(Gesellschaft mit beschränkter Haftung)とUG(Unternehmergesellschaft haftungsbeschränkt)の2つです。UGは2008年のGmbH法改正(MoMiG)で導入されたGmbHの特殊形態で、最低資本金1€から設立できる点が大きな特徴です。
本記事では、日本企業がドイツ進出時にどちらを選ぶべきか、実務上の判断基準を整理します。
基本比較——GmbH vs UG
| 項目 | GmbH | UG(haftungsbeschränkt) |
|---|---|---|
| 法的根拠 | GmbHG(有限会社法) | GmbHG §5a(GmbHの特殊形態) |
| 最低資本金 | 25,000€ | 1€(実務上は1,000€以上を推奨) |
| 設立時の最低払込額 | 12,500€(資本金の半額) | 全額払込が必要 |
| 現物出資 | 可能 | 不可(現金出資のみ) |
| 利益積立義務 | なし | 年間利益の25%を法定積立金に充当(資本金が25,000€に達するまで) |
| 商号 | 「〇〇 GmbH」 | 「〇〇 UG (haftungsbeschränkt)」(略称不可) |
| 有限責任 | あり | あり(GmbHと同等) |
| 設立手続き | 公証人認証が必要 | 公証人認証が必要(簡易定款の利用可) |
| 転換 | — | 資本金25,000€到達後、GmbHに転換可能 |
出典:GmbHG、IHK Stuttgart、firma.de
設立コストの比較
| 費用項目 | GmbH(資本金25,000€の場合) | UG(資本金1,000€の場合) |
|---|---|---|
| 公証人費用 | 約800〜1,200€ | 約300〜500€(簡易定款利用時) |
| 商業登記費用 | 約150€ | 約150€ |
| 銀行口座開設 | 無料〜100€ | 無料〜100€ |
| 弁護士費用(定款作成) | 1,000〜3,000€ | 0€(簡易定款利用時)〜1,500€ |
| 設立費用合計(資本金除く) | 約2,000〜4,500€ | 約500〜2,200€ |
| 必要総額(資本金含む) | 約14,500〜17,000€ | 約1,500〜3,200€ |
出典:GNotKG(公証人報酬法)、firma.de
UGは簡易定款(Musterprotokoll)を利用することで、公証人費用と弁護士費用を大幅に削減できます。ただし、簡易定款は社員(出資者)3名以下・業務執行者1名の場合にのみ利用可能で、カスタマイズの余地が限られます。
年間維持コストの比較
年間の維持コスト構造はほぼ同じですが、利益配分に大きな違いがあります。
| 項目 | GmbH | UG |
|---|---|---|
| 税理士費用 | 3,000〜8,000€ | 3,000〜8,000€ |
| IHK会費 | 150〜500€ | 150〜500€ |
| 決算書作成・公告 | 必要 | 必要 |
| 利益配分の制限 | なし | 利益の25%を積立義務 |
出典:StBVV、IHK
UGの最大の制約は利益積立義務(Thesaurierungspflicht)です。毎年の純利益の25%を法定積立金として資本に組み入れなければならず、この間は配当可能額が制限されます。資本金が25,000€に達するまでこの義務が続きます。
信用力・取引先からの評価
| 観点 | GmbH | UG |
|---|---|---|
| ドイツ企業との取引 | 高い信用力(伝統的な法人形態) | 低い資本金がマイナス評価になることがある |
| 銀行融資の取得 | 有利(資本金が信用力を裏付け) | 不利(資本金の低さがリスク要因に) |
| Creditreform等の企業信用調査 | 標準的な評価 | 資本金が低い場合、スコアが低くなる傾向 |
| 国際的な認知度 | 高い(「GmbH」は世界的に知られる) | 低い(「UG」は国内限定の認知度) |
日本企業のドイツ進出の場合、取引先はドイツの中堅〜大手企業であることが多く、その場合はGmbHのほうが信用面で明確に有利です。UGの「haftungsbeschränkt」の表記が、資本力の乏しさを連想させる場合があります。
判断フローチャート
以下の質問に「はい」「いいえ」で答えることで、最適な法人形態を判断できます。
Q1: 初期投資として12,500€以上の資本金払込が可能か?
→ はい → Q2へ → いいえ → UGを検討(ただし早期のGmbH転換計画を立てることを推奨)
Q2: ドイツの大手〜中堅企業との直接取引が主なビジネスモデルか?
→ はい → GmbHを推奨(信用力が重要) → いいえ → Q3へ
Q3: 設立後2年以内に資本金25,000€まで積み増す見込みがあるか?
→ はい → UGで設立し、早期にGmbHへ転換(コスト節約) → いいえ → GmbHを推奨(利益積立義務の長期化を回避)
日本企業にとっての実務的な推奨
| ケース | 推奨法人形態 | 理由 |
|---|---|---|
| 製造業の現地販売拠点 | GmbH | 取引先の信用審査で資本金が評価される |
| IT・SaaSの小規模拠点 | UG → GmbH転換 | 初期コストを抑えて検証可能 |
| R&D拠点 | GmbH | 助成金申請時に資本金要件がある場合がある |
| 1名駐在の営業拠点 | UG(簡易定款利用) | 設立コストを最小化 |
| 日本の上場企業の子会社 | GmbH | グループ全体の信用力との整合性 |
UGからGmbHへの転換手続き
UGの資本金が25,000€に達した場合、GmbHへの転換が可能です。
| ステップ | 内容 | 費用目安 |
|---|---|---|
| 1. 株主総会決議 | 資本金増額と定款変更を決議 | — |
| 2. 公証人認証 | 定款変更の公証人認証 | 約500〜800€ |
| 3. 商業登記 | 登記所への変更届出 | 約150€ |
| 4. 商号変更 | 「UG (haftungsbeschränkt)」→「GmbH」 | 登記費用に含む |
| 合計 | 約650〜1,000€ |
出典:GmbHG §5a、IHK
なお、転換は義務ではなく任意です。資本金が25,000€を超えた後もUGのまま事業を継続することは可能ですが、利益積立義務は解除され、商号をGmbHに変更する選択肢が生まれます。
まとめ
GmbHとUGは法的には同等の有限責任を提供しますが、資本金要件、設立コスト、信用力、利益配分の柔軟性で大きな違いがあります。
日本企業のドイツ進出においては、取引先の規模と性質、初期投資の余力、事業拡大のタイムラインを総合的に考慮して選択することが重要です。迷った場合は、GmbHの選択が一般的に安全な判断です。
本記事は、GmbHG(有限会社法)、IHK Stuttgart、firma.de、GNotKG(公証人報酬法)の公開情報に基づいて作成しています。具体的な法人設立は必ず現地の弁護士・税理士にご相談ください。