実務ガイド

商社向け:ドイツ取引で使うインコタームズ実務ガイド

2026年2月21日(土)

ドイツ企業との貿易取引において、インコタームズ(Incoterms® 2020)の正しい理解と適切な選択は、コスト管理とリスク回避の要です。しかし日本企業がドイツ市場で取引を始める際、日本国内の商慣習との違いに戸惑うケースは少なくありません。

本記事では、ドイツ取引で特に重要なインコタームズの実務的な使い方を解説します。

インコタームズとは:基本の確認

インコタームズ(Incoterms®)は、国際商業会議所(ICC)が定める貿易取引条件の国際標準です。最新版はIncoterms® 2020で、11の条件が定義されています。

インコタームズが定めるもの:

  • 売主と買主の費用負担の分岐点
  • リスク(損失・損害)の移転ポイント
  • 輸出入通関の責任分担

インコタームズが定めないもの:

  • 所有権の移転時期
  • 支払条件(L/C、T/T等)
  • 契約違反時の救済手段

11条件の全体像と分類

グループ 条件 名称 リスク移転地点
E(出荷地) EXW Ex Works(工場渡し) 売主の施設
F(主要運送費買主負担) FCA Free Carrier(運送人渡し) 指定場所で運送人に引渡し
FAS Free Alongside Ship 船側
FOB Free On Board 本船上
C(主要運送費売主負担) CFR Cost and Freight 本船上(費用は仕向港まで)
CIF Cost, Insurance and Freight 本船上(保険・運賃含む)
CPT Carriage Paid To 運送人引渡し(運賃は仕向地まで)
CIP Carriage and Insurance Paid To 運送人引渡し(保険・運賃含む)
D(到着地) DAP Delivered at Place 仕向地(荷卸し前)
DPU Delivered at Place Unloaded 仕向地(荷卸し後)
DDP Delivered Duty Paid 仕向地(関税込み)

ドイツ取引で頻出する4つのインコタームズ

1. EXW(Ex Works)— ドイツ企業が売主の場合に多い

ドイツの中堅企業(Mittelstand)が売主の場合、EXWを提示されるケースが非常に多い。

項目 内容
売主の責任 自社施設で商品を引き渡すのみ
買主の責任 輸出通関、運送、保険、輸入通関のすべて
ドイツでの実態 売主にとって最もリスクが少ないため人気

実務上の注意点:

  • EXWでは輸出通関も買主の責任だが、実際にはドイツの税関法上、外国企業が直接輸出通関を行うのは困難
  • ドイツ企業がVAT(付加価値税)の還付を受けるには、輸出証明が必要だが、EXWでは売主が輸出手続きに関与しないため証明が困難になるケースがある
  • 推奨: EXWではなくFCA(売主施設) に変更交渉するのが実務的

2. FCA(Free Carrier)— 最も実務的な選択肢

FCAは近年、ドイツ取引で最も推奨される条件です。

項目 内容
売主の責任 輸出通関+指定場所で運送人に引渡し
買主の責任 主要運送、保険、輸入通関
Incoterms® 2020の改良点 船積みB/Lの発行を売主に依頼可能に

FCAが推奨される理由:

  • 輸出通関は売主(ドイツ企業)が行うため、法的に整合性がある
  • VAT還付手続きが円滑に進む
  • コンテナ輸送でもバルク輸送でも対応可能
  • 日本企業側で運送・保険をコントロールできる

3. CIF / CIP — 日本企業が買主の場合の定番

条件 CIF CIP
対象 海上輸送のみ 全輸送モード
保険水準 ICC(C)(最低限) ICC(A)(全リスク)※2020改定
費用負担 売主が仕向港まで 売主が仕向地まで
リスク移転 本船積込時 運送人引渡時

実務上の注意点:

  • CIFの保険はICC(C)条件(最低限のカバー)がデフォルト。日本企業の期待するAll Risksカバーとは異なる
  • 推奨: 海上輸送以外も含む場合はCIPを選択し、ICC(A)条件の保険を確保

4. DDP(Delivered Duty Paid)— 日本企業が売主の場合

日本からドイツに輸出する場合、ドイツの買主からDDPを求められることがある。

項目 内容
売主の責任 運送、保険、輸出通関、輸入通関、関税、仕向地までの全費用
買主の責任 荷受けのみ
リスク 売主がドイツのVAT・関税を負担

実務上の注意点:

  • DDPではドイツでの輸入VAT(19%) の負担と還付手続きが必要
  • 日本企業がドイツで VAT登録(Umsatzsteuer-Identifikationsnummer)していない場合、VAT還付ができず二重課税となる
  • 推奨: VAT登録がない場合はDAP(関税・VAT除き)に変更交渉

インコタームズ選択のフローチャート

取引条件を決める際の判断基準を整理します。

Step 1:自社の立場は?

  • 日本企業が買主(ドイツから輸入) → Step 2a へ
  • 日本企業が売主(ドイツへ輸出) → Step 2b へ

Step 2a(買主の場合):物流をコントロールしたいか?

  • はい → FCA(輸送・保険を自社で手配)
  • いいえ → CIP(売主に運送・保険を任せる、全リスクカバー)

Step 2b(売主の場合):ドイツでVAT登録があるか?

  • はい → DDP で対応可能
  • いいえ → DAP(関税・VATは買主負担)

Step 3:運送モードは?

  • 海上輸送のみ → FOB / CIF も選択肢
  • 複合輸送(海上+陸上) → FCA / CIP / DAP を優先

ドイツ特有の実務ポイント

VAT(付加価値税)との関係

ドイツの標準VAT税率は19%(食品等は7%の軽減税率)。インコタームズの選択がVAT処理に直接影響します。

インコタームズ VAT処理
EXW / FCA / FOB EU域外輸出 → VAT 0%(輸出免税)
DDP 売主がドイツVATを負担(19%)→ VAT登録があれば還付可能
DAP 買主がドイツ輸入VAT(19%)を負担

Zollamt(税関)との実務

ドイツの税関手続きは電子化が進んでおり、ATLAS(Automatisiertes Tarif- und Lokales Zollabwicklungssystem)を通じて行われます。

  • 輸入申告はATLASで電子的に処理
  • 2026年2月からICS2 Version 3が義務化(事前貨物情報の提出)
  • Einfuhrumsatzsteuer(輸入VAT)は通常、翌月の確定申告で還付請求

Spediteur(フォワーダー)の活用

ドイツではSpeditionsvertrag(運送取扱契約)に基づくフォワーダーの利用が一般的です。

  • ADSp 2017(Allgemeine Deutsche Spediteurbedingungen)が業界標準約款
  • 責任限度額はSDR(特別引出権)ベースで規定
  • 日本の通関業者との連携には、事前の役割分担の明確化が必要

よくある失敗パターン

1. EXWのまま輸出通関で立ち往生

ドイツ企業からEXWで購入したが、自社で輸出通関の手配ができず、出荷が遅延。FCAへの変更を最初から交渉すべきだった。

2. CIF条件の保険でカバー不足

CIF条件で取引したが、保険がICC(C)(限定カバー)であることを見落とし、輸送中の損害が保険対象外に。追加保険の手配またはCIP条件(ICC(A)全リスク)への変更が必要だった。

3. DDPでVAT二重課税

ドイツのバイヤーにDDP条件で販売したが、ドイツVAT登録がなく、支払った輸入VAT(19%)の還付を受けられず実質的な二重課税に。DAP条件であれば回避できた。

4. インコタームズと支払条件の混同

インコタームズはあくまで費用・リスクの分担条件であり、支払条件(L/C、D/P、T/T等)とは別物。両方を契約書に明記する必要がある。

まとめ

ドイツ取引におけるインコタームズ選択のポイントは、「FCAを基本に、自社の立場とVAT処理を考慮して調整する」ことです。特にEXWの安易な受け入れとDDPのVATリスクは、日本企業が最も陥りやすい罠です。

取引開始前に現地の物流・税務の専門家に相談し、最適な条件を設計することを強くお勧めします。


TSMでは、ドイツ企業との取引条件交渉や、物流・通関体制の構築をサポートしています。インコタームズの選定から契約書のレビューまで、実務に即したアドバイスを提供します。

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