EU市場に化粧品を展開する際、最大の障壁となるのが成分規制です。日本で合法的に使用されている成分であっても、EUでは禁止または制限されているケースが多くあります。
本記事では、ドイツ・EU市場への化粧品輸出を検討する日本企業が、事前に確認すべき7つのチェックポイントを整理します。
EU化粧品規制の全体像
EUの化粧品規制は、EU化粧品規則(EC No 1223/2009) を中心に構成されています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 基本法令 | EU化粧品規則 EC No 1223/2009 |
| 管理機関 | 欧州委員会(SCCS=消費者安全科学委員会が評価を担当) |
| 登録システム | CPNP(Cosmetic Products Notification Portal) |
| 州レベルの監督 | ドイツでは各州のLandesamt(州庁)が市場監視を実施 |
| 違反時の罰則 | 製品回収、販売禁止、最大5万ユーロの過料(州によって異なる) |
日本の薬機法との最大の違いは、EUでは化粧品に事前承認制度がないこと。代わりに、企業が自己責任で安全性を立証し、当局に届出を行う制度です。
チェック1:禁止成分リスト(Annex II)との照合
EU化粧品規則のAnnex IIには、1,600以上の禁止成分が列挙されています。
日本で使用可能だがEUで禁止されている成分の例:
| 成分 | 日本での扱い | EUでの扱い |
|---|---|---|
| ホルムアルデヒド放出防腐剤(一部) | 使用可能(濃度制限あり) | Annex IIで原則禁止 |
| 特定のタール色素 | 使用可能 | Annex IIで禁止 |
| 一部のUVフィルター | 承認済み | EUでは未承認のため使用不可 |
| マイクロプラスチック(2025年規制強化) | 規制なし | 段階的使用禁止(ECHA規制) |
チェックポイント:
- [ ] 全製品の全成分をAnnex II(禁止リスト)と照合済みか
- [ ] 該当成分がある場合、代替成分の検討を開始しているか
チェック2:制限成分リスト(Annex III)の濃度確認
Annex IIIは、使用可能だが濃度や用途に制限がある成分のリストです。
| 成分カテゴリ | 制限内容の例 |
|---|---|
| 防腐剤 | 種類ごとに最大濃度が規定(例:パラベン類は個別0.4%、合計0.8%) |
| 着色料 | 使用可能部位の制限(目の周り、唇など) |
| UVフィルター | 承認済みフィルターのみ使用可。最大濃度が規定 |
| 香料アレルゲン | 26種のアレルゲン成分は濃度超過時に表示義務 |
チェックポイント:
- [ ] Annex IIIの制限成分について、自社製品の配合濃度が基準内か確認済みか
- [ ] 香料アレルゲン26種の含有量を把握し、表示要否を判断しているか
チェック3:安全性評価報告書(CPSR)の作成
EUでは、全化粧品にCosmetic Product Safety Report(CPSR)の作成が義務付けられています。
CPSRの構成:
| パート | 内容 |
|---|---|
| Part A:安全性情報 | 成分の毒性データ、微生物学的品質、安定性試験、パッケージング情報 |
| Part B:安全性評価 | 有資格の安全性評価者(Safety Assessor)による署名付き評価 |
重要: Safety Assessorは、EU内で薬学・毒性学・医学等の学位を持つ専門家でなければなりません。日本国内の専門家では要件を満たさない場合があります。
チェックポイント:
- [ ] EU有資格のSafety Assessorを確保しているか(社内または外部委託)
- [ ] 安全性データ(毒性試験、安定性試験等)が英語またはドイツ語で整備されているか
チェック4:CPNP(EU化粧品届出ポータル)への登録
EU市場に化粧品を上市する前に、CPNP(Cosmetic Products Notification Portal)への届出が必須です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届出時期 | 上市前に完了する必要あり |
| 届出者 | EU域内のResponsible Person(RP)が行う |
| 届出内容 | 製品カテゴリ、成分リスト(INCI名)、ラベル、フレーム処方 |
| ナノマテリアル | 使用する場合は上市6ヶ月前に別途届出 |
| 費用 | CPNP自体は無料。RP委託費用は別途 |
チェックポイント:
- [ ] EU域内のResponsible Person(RP)を選定・契約しているか
- [ ] 製品情報ファイル(PIF)がCPNP届出に必要な形式で整備されているか
チェック5:ラベル表示のEU基準への適合
EUの化粧品ラベル表示は、日本とは異なる要件があります。
必須表示項目:
| 項目 | EU要件 |
|---|---|
| INCI名称 | 全成分をINCI(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)で表示 |
| 使用期限 | 30ヶ月超の場合はPAO(開封後使用期限)マーク |
| 内容量 | メートル法(mL / g)で表示 |
| 原産国 | EU域外で製造された場合は原産国表示 |
| RPの名称・住所 | EU域内のResponsible Personの情報 |
| 使用上の注意 | 製品カテゴリに応じた注意書き |
| バッチ番号 | トレーサビリティのため必須 |
| 言語 | 販売国の公用語で表示(ドイツでは独語) |
チェックポイント:
- [ ] ドイツ語のラベルデザインが完成しているか
- [ ] INCI表記が最新のEU基準に準拠しているか
チェック6:動物実験禁止規制への適合
EUは世界で最も厳しい動物実験禁止規制を適用しています。
| 禁止事項 | 内容 |
|---|---|
| 製品の動物実験 | 全面禁止(2004年〜) |
| 成分の動物実験 | 全面禁止(2013年〜) |
| 動物実験データに基づく製品の販売 | 禁止(域外で実施した場合も該当) |
注意: 中国市場向けに動物実験を行っている場合、その成分を含む製品はEUでの販売が認められない可能性があります。
チェックポイント:
- [ ] 全成分について、動物実験に依存しない安全性データを保有しているか
- [ ] サプライヤーから動物実験不使用の証明(Statement)を取得しているか
チェック7:州別の市場監視体制の把握
ドイツでは連邦制のため、化粧品の市場監視は州ごとに実施されます。
| 州 | 監督機関 | 特徴 |
|---|---|---|
| バイエルン州 | LGL(Bayerisches Landesamt für Gesundheit und Lebensmittelsicherheit) | 抜き打ち検査が頻繁 |
| NRW州 | LANUV(Landesamt für Natur, Umwelt und Verbraucherschutz) | 日系企業が多い地域、相談窓口あり |
| ヘッセン州 | RP Darmstadt | フランクフルト経由の輸入品を重点監視 |
| ハンブルク | BGV(Behörde für Gesundheit und Verbraucherschutz) | 港湾経由の輸入化粧品の検査 |
チェックポイント:
- [ ] 主要販売地域の州監督機関を把握しているか
- [ ] 市場監視(Marktüberwachung)への対応手順を整備しているか
日本企業が陥りやすい3つの落とし穴
1. 「日本で安全=EUでも安全」の思い込み
日本の薬機法とEU化粧品規則は、禁止・制限成分リストが大きく異なります。日本での承認実績は、EUでの適合を保証しません。必ずEU独自のリストで照合が必要です。
2. Responsible Person(RP)の選定を後回しにする
RPの確保はEU市場参入の前提条件です。RPなしではCPNP届出ができず、合法的に製品を上市できません。RPの選定には通常2〜3ヶ月かかるため、早期の着手が重要です。
3. ドイツ語ラベルの品質が低い
機械翻訳のドイツ語ラベルは、消費者の信頼を損なうだけでなく、法的要件を満たさない可能性があります。専門の翻訳者とドイツ語ネイティブの確認を経たラベル作成を推奨します。
まとめ:7項目チェックリスト一覧
| # | チェック項目 | 状態 |
|---|---|---|
| 1 | Annex II(禁止成分リスト)との全成分照合 | □ |
| 2 | Annex III(制限成分)の濃度・用途確認 | □ |
| 3 | CPSR(安全性評価報告書)の作成とSafety Assessor確保 | □ |
| 4 | CPNP届出とResponsible Person契約 | □ |
| 5 | EU基準のラベル表示(ドイツ語)整備 | □ |
| 6 | 動物実験禁止規制への適合確認 | □ |
| 7 | 州別の市場監視体制の把握と対応手順の整備 | □ |
TSMでは、化粧品を含む消費財のドイツ・EU市場参入をサポートしています。Responsible Personの選定からCPNP届出、ラベル翻訳まで、一貫してお任せいただけます。