日本企業がEU市場(特にドイツ)でビジネスを行う際、請求書の不備は仕入税額控除(Vorsteuerabzug)の否認や取引先からの差し戻しにつながる実務上のリスクです。本記事では、EU VAT指令およびドイツ売上税法(UStG)に基づく請求書の必須要件を整理します。
1. EU VAT指令が定める請求書の必須記載事項
EU VAT指令(2006/112/EC)第226条は、VAT登録事業者が発行する請求書に以下の項目を記載することを義務付けています。
| 項番 | 必須項目 | 日本企業が見落としやすいポイント |
|---|---|---|
| 1 | 発行日 | — |
| 2 | 連番(一意の識別番号) | 欠番・重複は税務調査で問題視される |
| 3 | 供給者のVAT番号 | 日本の適格請求書番号とは別にEUのUSt-IdNr.が必要 |
| 4 | 顧客のVAT番号 | B2B取引では必須。VIES(EU VAT番号検証システム)で有効性を確認 |
| 5 | 供給者の正式名称・住所 | EU域内の登記住所 |
| 6 | 顧客の正式名称・住所 | — |
| 7 | 財・サービスの品目・数量の詳細記述 | 「食品」等の一括記載は不可。品目ごとの具体的記述が必要 |
| 8 | 供給日(Lieferdatum) | 請求日とは別に納品日・サービス提供日の記載が必要 |
| 9 | 税抜金額(税率別) | 総額のみの表示は不可。税率ごとに分離表示が必要 |
| 10 | 適用税率 | ドイツでは標準19%と軽減7%の区別が必須 |
| 11 | VAT税額(税率別) | 税率ごとの税額を明記 |
| 12 | 免税適用の場合その根拠 | EU域内取引の免税にはVAT指令の該当条文を記載 |
日本の請求書フォーマットをそのまま翻訳しても、上記の多くの項目が欠落していることが一般的です。特にVAT番号の記載、供給日の明記、税率別の分離表示は、日本の商慣行にはない要件であり注意が必要です。
2. ドイツ固有の追加要件(UStG §14)
ドイツではEU VAT指令に加えて、売上税法(UStG)§14で以下の追加要件があります。
- Steuernummer(税番号)またはUSt-IdNr.(VAT番号) の記載が必須
- 軽減税率(7%)と標準税率(19%)の品目別分離 — 食品・飲料では特に重要
- 前払金がある場合の処理方法 の明記
- クレジットノート(Gutschrift) は「Gutschrift」と明示する必要あり
食品・飲料業界での税率区分
食品・飲料は軽減税率(7%)が適用される品目が多いですが、すべてではありません。
| 品目 | 税率 |
|---|---|
| 基本食料品(米、パン、肉、魚、野菜等) | 7% |
| 飲料水 | 7% |
| 果汁(ジュース類) | 19% |
| アルコール飲料 | 19% |
| レストランでの飲食提供 | 19% |
| テイクアウト食品 | 7% |
| 高級食材・嗜好品(一部) | 19% |
一つの請求書に7%品目と19%品目が混在することは日常的であり、税率ごとの金額・税額の分離表示は必須です。
3. 電子請求書(E-Rechnung)への移行スケジュール
ドイツでは電子請求書の義務化が段階的に進んでいます。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年1月〜 | 電子請求書の受領義務(全B2B事業者) |
| 2027年1月〜 | 年商80万ユーロ超の企業に発行義務 |
| 2028年1月〜 | 全B2B事業者に発行義務 |
対応すべき電子請求書形式
| 形式 | 概要 |
|---|---|
| XRechnung | ドイツ政府が推奨するXMLベースの構造化形式。公共調達では必須 |
| ZUGFeRD 2.x | PDF/A-3にXMLデータを埋め込むハイブリッド形式。EN 16931準拠。人間が読めるPDFと機械処理可能なデータの両方を含む |
2025年1月以降、ドイツのB2B取引先から電子請求書を受領する体制は必須です。2027年以降は自社からの発行も義務化されるため、ERP・会計システムの対応準備を早期に進める必要があります。
4. VAT番号の取得と検証
VAT番号(USt-IdNr.)の取得
ドイツで法人を設立し事業を行う場合、VAT番号の取得が必要です。管轄税務署(Finanzamt)への申請により交付されます。
取引先VAT番号の検証
B2B取引では、取引先のVAT番号が有効であることを確認する義務があります。欧州委員会が提供するVIES(VAT Information Exchange System) で無料で検証可能です。
検証URL:https://ec.europa.eu/taxation_customs/vies/
定期的な検証(少なくとも新規取引開始時と年1回)が推奨されています。
5. 日本企業が対応すべき実務チェックリスト
| # | 項目 |
|---|---|
| 1 | 自社のVAT番号(USt-IdNr.)を請求書に記載しているか |
| 2 | 取引先のVAT番号を記載し、VIESで有効性を検証しているか |
| 3 | 品目の詳細記述(品名・数量・単価)を記載しているか |
| 4 | 供給日(Lieferdatum)を請求日とは別に記載しているか |
| 5 | 税抜金額を税率別(7%/19%)に分離表示しているか |
| 6 | 適用税率とVAT税額を税率別に明記しているか |
| 7 | 請求書番号の連番管理に欠番・重複がないか |
| 8 | 免税取引の場合、VAT指令の該当条文を記載しているか |
| 9 | 電子請求書(XRechnung/ZUGFeRD)の受領体制があるか |
| 10 | 2027年の発行義務化に向けたERP対応を計画しているか |
まとめ
EU・ドイツ向けの請求書要件は、日本の商慣行とは異なる点が多く、見落とすとVAT控除の否認や取引先からの差し戻しにつながります。特に食品・飲料業界では軽減税率(7%)と標準税率(19%)の混在対応が日常的に発生するため、正確な税率分離表示が不可欠です。
2027年以降の電子請求書発行義務化も見据え、早期のシステム対応をお勧めします。
本記事はEU VAT指令(2006/112/EC)およびドイツ売上税法(UStG)に基づいて作成しています。税務上の判断は必ず現地の税理士(Steuerberater)にご相談ください。