ドイツはEU最大の経済規模を誇る国であり、日本企業にとって欧州市場への重要な玄関口です。しかし、ドイツで法人を設立することは、単に書類を提出するだけではなく、複数の段階を踏む必要があります。本記事では、ドイツでの法人設立の基本的な流れ、必要な資本、手続きのタイムライン、そして日本企業が特に注意すべきポイントについて解説します。
ドイツの主要な法人形態
ドイツで事業を展開するにあたって、最初に決定すべきことが法人形態です。日本企業が利用することが多い3つの主要な形態について説明します。
GmbH(有限責任会社)
GmbHは、ドイツで最も一般的な法人形態であり、「Gesellschaft mit beschränkter Haftung」の略です。これは日本の株式会社に最も近い形態で、有限責任を保有しており、株主の責任は出資額に限定されます。GmbHは1社以上の株主で設立でき、最低資本金は25,000ユーロです。
GmbHの大きな利点は、信用性が高く、銀行との融資交渉やビジネスパートナーとの取引がしやすいという点です。また、利益配当や損失の計算が比較的シンプルで、会計処理も標準化されています。しかし、設立には相応の資本が必要であり、手続きも複雑です。
UG(非営利会社)
UGは、「Unternehmergesellschaft」の略で、GmbHの簡易版として2008年に導入されました。最低資本金がわずか1ユーロで、スタートアップや資本が限定的な企業に適しています。しかし、毎年の利益の4分の1は法定準備金として保有する必要があります。
UGは設立が簡単で、初期投資が少なくて済むことが利点です。一方、知名度がGmbHほど高くないため、ビジネスパートナーからの信用獲得に時間がかかることもあります。将来的にGmbHへの転換も可能です。
AG(株式会社)
AGは、「Aktiengesellschaft」の略で、ドイツの最大級の法人形態です。最低資本金は50,000ユーロで、複数の株主に分散した株式構造を持つ場合に選択されます。上場企業や大規模企業がAGを採用することが多いです。AGは複雑な法的枠組みと厳格な会計監査要件が伴うため、日本からのスタートアップ企業にはあまり適切ではありません。
ドイツでの法人設立プロセス
ドイツでの法人設立は、複数の段階を経て進められます。以下は一般的なGmbH設立の流れです。
ステップ1:事業概念と事業計画の策定
まず、ドイツでどのような事業を展開するのか、明確なビジネスプランを作成する必要があります。商号(会社名)の決定、事業内容の定義、初期投資額の見積もりなどが含まれます。商号は他社と重複していないことを確認する必要があり、ドイツの商業登録所(Handelsregister)で事前に確認することをお勧めします。
ステップ2:定款の作成と公証
GmbHの設立には、定款(Satzung)の作成が必須です。定款には、会社名、事業内容、資本金、株主の権利と義務、経営体制などが記載されます。定款は、ドイツの公証人(Notar)に認証してもらう必要があります。この段階で、株主確認や資本金の払込金を確実にする手続きも進められます。
公証人を通じた定款作成は、約500~1,500ユーロの費用がかかります。公証人は法的な適切性を確認し、文書の真正性を保証します。
ステップ3:銀行口座開設と資本金の払込
定款が公証されたら、ドイツの銀行にて設立企業名義の銀行口座を開設し、最低資本金(GmbHの場合は25,000ユーロ)を払い込みます。この払込は、会社成立前に実施されなければなりません。銀行から払込証明書(Treuhandbestätigung)が発行され、これは後に商業登録申請に必要な書類となります。
ステップ4:商業登録(Handelsregister)への登録
定款の公証と資本金の払込が完了した後、地方裁判所の商業登録所に登録申請書を提出します。必要な書類には、公証済み定款、払込証明書、株主確認書などが含まれます。この段階で、税務署(Finanzamt)にも企業番号(Steuernummer)の申請が自動的に行われます。
商業登録の処理は通常5~10営業日で完了します。登録が完了すると、企業としての法的な地位が確立されます。
ステップ5:社会保険への登録
従業員を雇用する場合、社会保険(Sozialversicherung)に登録する必要があります。ドイツではGEZ(公共放送費)や職業組合(Berufsgenossenschaft)への加入も検討が必要な場合があります。
必要資本と初期費用
ドイツでの法人設立にあたって、実質的な費用構成は以下の通りです。
| 項目 | GmbH | UG | 備考 |
|---|---|---|---|
| 最低資本金 | 25,000ユーロ | 1ユーロ | 必須出資額 |
| 公証費用 | 500~1,500ユーロ | 300~600ユーロ | 定款作成・公証 |
| 登記費用 | 150~300ユーロ | 100~200ユーロ | 商業登録手数料 |
| 弁護士・税理士費用 | 1,000~3,000ユーロ | 500~2,000ユーロ | 専門家支援 |
| 合計(資本金除く) | 1,650~4,800ユーロ | 900~2,800ユーロ | 目安 |
これらは最小限の費用であり、実際には会社の規模や複雑さに応じてさらに費用がかかることもあります。また、オフィス賃借料、従業員採用関連費用、営業許可取得など、事業開始に向けた追加費用も必要です。
日本企業が特に注意すべきポイント
言語の壁と法務体制
ドイツの法律は複雑で、重要な文書はすべてドイツ語で作成される必要があります。定款やコンプライアンス関連の書類は、法的に正確なドイツ語が求められます。信頼できる弁護士や税理士をパートナーとして確保することは、トラブルを事前に防ぐために不可欠です。
労働法の厳格性
ドイツでは労働法が非常に強固で、従業員の保護が手厚くなっています。一度従業員を雇用すると、解雇には極めて厳しい要件が設定されます。また、労働時間規制、賃金水準、労働契約の条件など、すべてドイツの法律に適合している必要があります。日本での人事慣行がドイツでは通用しない可能性があるため、事前の確認が重要です。
税務上の負担
ドイツの法人税率は約30%(連邦所得税、地方営業税、帯連帯特別税を含む)で、比較的高い水準です。また、取引税(Umsatzsteuer/VAT)も19%と高く、複雑な会計報告が必要です。日本との二重課税を避けるため、租税条約の活用を早めに検討すべきです。
書類作成と公証の時間
ドイツでは公証人による認証が多くの法的手続きで必要とされます。公証人の予約確保や書類作成に想定以上の時間がかかる可能性があります。全体的なタイムラインに余裕を持たせることが重要です。
銀行口座開設の難しさ
ドイツの銀行は、資金洗浄対策(AML)のため、新規企業の口座開設に対して厳格な審査を行います。完全な身分確認書類、株主情報、事業計画書などが要求されます。日本から送付される書類は、認証済みコピーや正式な英語・ドイツ語翻訳が必要です。
現地パートナーの必要性
日本企業がドイツで円滑に事業を展開するには、信頼できる現地パートナーの存在が極めて重要です。法務、会計、人事など各分野の専門家をネットワークとして構築することで、ドイツの複雑な規制環境をナビゲートすることが容易になります。
設立から事業開始までのタイムライン
GmbH設立の標準的なタイムラインは以下の通りです:
- 事前準備段階(1~2週間):商号決定、事業計画策定、弁護士・税理士の選定
- 定款作成・公証(2~3週間):弁護士による定款案作成、公証人との打ち合わせ、公証認証
- 資本金払込(1~2週間):銀行口座開設、資本金払込、払込証明書取得
- 商業登録申請(1~2週間):書類提出、商業登録完了
- その他手続き(1~2週間):税務署への届出、社会保険登録、営業許可取得
全体的には、事前準備から事業開始まで、約2~3ヶ月を見込むことが現実的です。ただし、書類不備や銀行の審査遅延など、予期しない要因で遅延する可能性があるため、余裕のあるスケジュール計画が重要です。
まとめ
ドイツでの法人設立は、日本での会社設立と比較して、より複雑で時間がかかるプロセスです。しかし、しっかりとした準備と信頼できる専門家のサポートを受けることで、円滑に進めることができます。GmbH、UG、AGなど各形態の特徴を理解し、自社のビジネスモデルに適した選択をすることが第一歩です。また、ドイツの労働法、税務制度、規制要件などを事前に理解し、現地パートナーをしっかり確保することで、設立後の事業展開をスムーズに進めることができます。
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